私たちの街のGROWING

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私たちの街のGROWING

すべての人が楽しむために神奈川県が推進する〈かながわパラスポーツ〉

 神奈川県では、2015年から〈かながわパラスポーツ〉を推進しています。これは、障がいのある人だけでなく、すべての人が自分の運動機能を活かして同じように楽しみながらスポーツをする、観る、支えるための取り組みです。県では、2020年に開催される東京パラリンピック競技大会に神奈川育ちの選手が1人でも多く出場することを目指し、パラリンピアン育成事業を実施しています。この取り組みの一環として実施しているパラリンピック競技体験会「パラスポーツトライアルinかながわ」。その開催にスポーツくじ(toto・BIG)の助成金が活用されており、地域における障がい者スポーツの普及促進を支援しています。そもそも、神奈川県はなぜこのような取り組みを推進しているのでしょうか。2015年に始まった神奈川県の取り組みを紹介します。

スポーツを“する”だけでなく“観る” “支える”も重視

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第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわの様子

 2018年12月2日、神奈川県が推進する取り組みの一環として、厚木市にある神奈川県総合リハビリテーションセンターで、障がい者を対象としたパラリンピック競技体験会「第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわ」が開催されました。身体や知的に障がいがある延べ約70名の参加者が、世界の第一線で活躍する選手や指導者と交流しながらパラスポーツに挑戦。会場の体育館やアーチェリー場が熱気に包まれました。

 現在、神奈川県の取り組みの基軸となっているのが、2015年1月に発表された〈かながわパラスポーツ推進宣言〉です。
 「〈かながわパラスポーツ推進宣言〉は、世界の舞台で活躍するパラリンピアンを通じて、体を動かすノウハウや諦めない心などを学び、未病※を改善していくことや、2020年の東京パラリンピック競技大会を盛り上げていくために打ち出されたものです」と、神奈川県スポーツ局スポーツ課にて障がい者スポーツの普及に携わる藤原英明さんは言います。
※「未病」については、神奈川県のHPをご参照ください。(http://www.pref.kanagawa.jp/docs/mv4/cnt/f532715/p1002238.html

 誰しも高齢者になれば、どこかの身体機能が衰えていくなかで、自分の運動機能を活かして、最大限の力を発揮できるよう創意工夫しているパラリンピアンの姿から学べることは多いのではないか。そう考えた神奈川県は、一般的に「障がいのある人がするスポーツ」と認知されているパラスポーツを、「すべての人が自分の運動機能を活かして同じように楽しみながらスポーツを“する” “観る” “支える”こと」として、新たに〈かながわパラスポーツ〉と定義。以下の3つの取り組みを推進すると打ち出したのが〈かながわパラスポーツ推進宣言〉でした。
 ①パラリンピアンから学びます
 ②〈かながわパラスポーツ〉を実践します
 ③パラリンピック競技大会を盛り上げます

 〈かながわパラスポーツ推進宣言〉において、特に注目したいのがスポーツを“する”だけでなく、“観る”と“支える”にも言及していることです。この理由を藤原さんは次のように解説します。

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障がい者スポーツの魅力を語る、神奈川県スポーツ局スポーツ課 藤原英明さん

 「障がい者スポーツを理解する入り口は、とにかく観てもらうことです。一流の選手によるものであれば、それに越したことはない。競技を観て、『身体の不自由さをまったく感じさせないね』『車いす同士が激しくぶつかっているな』といった感動から、障がいのある方への理解が進んでいくと思います。
 また、競技をする人だけでなく、障がい者スポーツを支える人たちの存在も欠かすことができません。神奈川県では支える人材の養成を進めるべく、3種類の資格の講習会を実施しています」
 その資格のひとつが公益財団法人日本障がい者スポーツ協会が制定する公認指導者制度の「初級障がい者スポーツ指導員」です。主に初めてスポーツに参加する障がい者に対してスポーツの喜びや楽しさを伝えられる指導者を養成します。経験年数で中級・上級の受講も可能です。
 また、神奈川県独自の資格としては、「かながわパラスポーツコーディネーター(以下、コーディネーター)」と「神奈川県障害者スポーツサポーター(以下、サポーター)」の2つがあります。コーディネーターは、スポーツ推進委員や特別支援学校などの学校の教員といった普段から地域で活動されている方を主な対象とし、身近な地域において「かながわパラスポーツ」を主体的に企画・実践するための資格です。一方、サポーターは県内の障がい者スポーツ大会やイベントなどにおいて、ボランティアとして活動できるスタッフを養成する資格です。サポーターは、障がい種別や一般的な障がい特性のほか、県の障がい者スポーツの取り組みなどを学ぶ座学と、障がい者のサポート方法や障がい者スポーツ体験の実技を修了することで登録されます。
 「県が実施する大会やイベントだけでなく、各市町村のイベント、競技団体の練習や大会にも多くのスタッフが必要ですし、企業が主体のイベントなどにもニーズがあると思います。そこで、障がい者スポーツを支える人材が必要なイベントなどの情報をメールなどで配信し、養成した人材の方々にエントリーしてもらうマッチングの仕組みを開始しました」(藤原さん)

県民すべての方が楽しめるトークショー&競技体験会

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ラケットの使い方をアドバイスする、リオデジャネイロパラリンピック車いすテニス日本代表監督 中澤吉裕さん(第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわにて)

 現在、神奈川県で実施している主なイベントは「かながわパラスポーツフェスタ(以下、フェスタ)」と「パラスポーツトライアル inかながわ(以下、トライアル)」の2種類があります。
 「フェスタは、〈かながわパラスポーツ〉の根底にある“すべての人が楽しみながら”を具現化したイベントで、高齢の方も、お子さまも、障がいがある方も、県民すべての方に楽しんでもらうことを目指し、講演会や競技体験会を組み合わせた形で行っています。
 一方、トライアルは、障がい者を対象にしたイベントです。競技を体験してもらい、パラリンピック競技の普及を目指すという側面と、2020年の東京パラリンピック競技大会とその先を見据えて、競技を続けていく方や、未来のパラリンピアンの発掘をしていこうという側面があります」(藤原さん)

 そのいずれにおいても、「パラリンピアンから学ぶこと」を重要視しています。
「〈かながわパラスポーツ推進宣言〉にもあるように、パラリンピアンが自らの限界に挑む姿からは、多くのことを学ぶことができます。講演会やトークショー、デモンストレーションで、来場者に向けて自らの体験談を語ったり、演技を見せたりすることなどを通じて、身体を動かすノウハウや、創意工夫、諦めない心、できるようになる喜びなどを発信してもらう役割をパラリンピアンにはお願いしています」(藤原さん)

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第2回かながわパラスポーツフェスタ2018の様子

 2018年11月17日。神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎市総合体育館で、「第2回かながわパラスポーツフェスタ2018」が開催され、たくさんの参加者が思い思いにパラスポーツを楽しむ光景が広がっていました。
 さまざまな競技で活躍している選手・指導者によるトークショーでは、
「目が見えていたときもサッカーをやっていたので、当たり前にできていたことができなくなり慣れるのが大変でした」(落合啓士選手/ブラインドサッカー® 元日本代表主将)
「ウィルチェアーラグビーは車いす同士の激しいぶつかり合いが魅力のスポーツです。相手の攻撃を阻止したり、防御を突破したりするために、車いす競技のなかで唯一コンタクトプレーが許されています」(若山英史選手/ウィルチェアーラグビー リオデジャネイロパラリンピック銅メダリスト)
「パラ・パワーリフティングは上半身の力だけを使ってバーベルを上げる種目です。階級によっては健常者の世界記録を超える場合もあります」(吉田進氏/特定非営利活動法人日本パラ・パワーリフティング連盟理事長)
といった話があり、聴衆からは驚きや感嘆の声も。実際にイベントに参加した方からは、以下のような感想も寄せられました。
「ボールが近寄ってくる感覚や相手がどこにいるのかを気にかけて挑戦してみましたが、ボールとの距離感が分からず大変でした。競技を見たことはありましたが、体験することで印象が大きく変わりましたね」(ブラインドサッカー®体験者)
「車いすが思ったよりもよく動き、回りすぎてしまうなど、操作が難しかったです。普段と使う筋肉が違うので10〜20分続けるだけでも疲れてしまいました」(ウィルチェアーラグビー体験者)
「小学生の子どもと参加しましたが、子どもにパラスポーツに興味を持ってもらうとてもよい機会になりました」
「片足に障がいを負ってから、なかなか運動する機会がなくなってしまい、パラスポーツを体験する場を探していました。もっとパラスポーツが普及し、体験する場が増えてくれると嬉しいです」

 茅ヶ崎市でのイベントを受けて、藤原さんも「フェスタは主に地域の小・中学校や高等学校、特別支援学校、障がい福祉施設などを中心にお声がけをしています。その甲斐もあってか、家族連れを中心に多くの方が会場に足を運んでくれています。今後もイベントを継続してほしいといった好評の声をいただいています。用具があればルールも簡単なので、学校などでも取り組んでほしいですね」と手応えを口にしました。

一流の選手と指導者を呼び、未来のパラリンピアンを発掘

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 では、トライアルはどうでしょうか。前述のようにトライアルは、障がい者を対象とした体験会としているため、障がい者がより競技に触れられる内容となっており、未来のパラリンピアンの発掘に重きを置いたイベントになっています。
「まずは、競技に対して関心をもってもらう。継続した活動を希望される方には、競技団体の情報や神奈川県で練習できる場所を教えてあげることで、競技志向を促し、パラリンピアンを目指すことにつなげていければと考えています。また、競技団体の選手や指導者が、その選手の適性を判断するのにも活用しています」(藤原さん)
 トライアルの開催において、パラリンピアンなどの講師を呼んだり、イベントの広報をしたりするためにスポーツくじの助成金が活用されています。「助成金は日本代表の選手や指導者の招聘につながっています。経験豊かな指導者は、技術的なところだけでなく、競技を続けていく具体的なアドバイスができます。競技を始めようとする若い年齢層に対して、これらのノウハウや情報は非常に貴重です」と藤原さんは未来のパラリンピアン発掘に期待を寄せます。

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第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわの様子

 2018年12月2日、冒頭にもあるように、厚木市の神奈川県総合リハビリテーションセンターで「第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわ」が開催され、延べ約70名の参加者が車いすテニス、卓球、アーチェリーといった競技を体験しました。
「今回のトライアルは、一般のスポーツ施設ではなく、先天性や中途障がいの方(人生の途中で脳卒中や難病、交通事故などで障がいを負われた方)がリハビリテーションの一環でスポーツに取り組んでいるリハビリテーション施設を利用しています。施設に通い慣れている方も多かったため、身近な施設として、これまでよりも参加しやすいのではと考えました。
 さらに今回は、未来のパラリンピアンとなりうる方に体験してもらいたいというトライアルの趣旨に沿って、地域の小・中学校や特別支援学校、高等学校などを重点的に広報しました。その結果、多くの児童・生徒など、若い年齢層の方に参加いただき、かなり手応えを感じています。
 県内にはこういったリハビリテーション施設や障がい者スポーツに特化した施設があるので、今後も障がい者が通い慣れた身近な施設で開催しようと考えています」(藤原さん)

普及活動は道半ば。課題もまだまだ多い

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 神奈川県全体として、まだまだ課題は多いそう。普及活動については、「フェスタという形でやっているが、県民の方の認知度は決して高くないです」と藤原さん。まだ裾野を広げている段階ということもあり、フェスタやトライアルの開催場所はこれまで利用したことがない施設が中心なのだという。
 「今後は、集客力のある場所での開催も検討しています。また、フェスタの一環として、パラスポーツの競技会であるボッチャ大会「かながわボッチャ2018」を11月に綾瀬市で開催したところ、レクリエーション部門と競技部門で合計40チームが参加し、大変盛り上がりました。今後もイベントとあわせ、こういった大会などを効果的に実施できるように、企画内容と開催場所を検討しなければならないですね」

 また、神奈川県として、「競技団体を統括する組織を作っていくことが必要」と藤原さんは提言します。他の都道府県には障がい者スポーツ協会がありますが、神奈川県には現状ありません。
「障がい者スポーツの情報を集約して発信したり、地元の競技団体を育成したりする組織が神奈川県にも必要で、現在、障がい者スポーツ関係団体と県などで団体設立に向けた検討を進めています。選手の発掘をどういう形で上位の競技団体につなげていけるかということも課題ですね。競技団体と県の取り組みを共有して、障がい者スポーツ全体の底上げを図り、そうした取り組みが一人でも多くのパラアスリートの活躍につながったら良いですね」

 現在、藤沢市にある神奈川県立体育センター(以下、体育センター)を再整備中である神奈川県では、再整備の柱として、体育センターを障がい者スポーツの拠点として打ち出していく方向で進めています。これまでも県の障害者スポーツ大会などを行っていますが、再整備した体育センターにおいて障がい者スポーツの普及に向けてどのような取り組みを展開していくのか、現在検討しているところです。
 トライアルの内容についても、「現状は体験志向の要素が多くを占めていますが、これからは徐々に競技志向にシフトしていきたいですね。体験できる内容も初歩的な体験だけでなく、体力測定も含めた段階的な取り組みをしていきたいと考えています」と藤原さんは展望を語ります。

誰もがスポーツに親しめる未来を目指して

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“神奈川県育ち”の選手が一人でも多くパラリンピック競技大会に出場することを願い、さまざまな取り組みを実施している

 これらの取り組みに加えて神奈川県では、2020年の東京パラリンピック競技大会に向けて、一人でも多くの“神奈川県育ち”の選手が出場することを目指し、「パラリンピアン育成事業助成」を行っています。
 「県民に注目され、希望や勇気を与えられるような結果を出してもらえるよう年間で35名の選手と指導者2名に活動経費の一部を助成しています。東京パラリンピック競技大会のほかにも、競技や障がい種別によってさまざまな世界レベルの大会が開催されます。現状の県の支援対象は、2020年の東京パラリンピック競技大会のみなので、冬季のパラリンピックやほかの世界レベルの大会への支援はどうするかなど、2020年のさらにその先の支援のあり方についても検討していく予定です」(藤原さん)

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第1回パラスポーツトライアル2018 inかながわの様子

 「スポーツが発信できることはたくさんあるはずです」と藤原さんはスポーツの力に期待を寄せます。
 「障がい者スポーツの出発点は福祉行政ですが、神奈川県では、2016年にスポーツ局を設置して以降、高齢者スポーツや障がい者スポーツを含めたスポーツ行政を一元化して取り組んでいます。今後も〈かながわパラスポーツ〉への県民の理解度を高めるとともに、誰もが “いつでも” “どこでも” “いつまでも” スポーツに親しめるような生涯スポーツ社会をつくっていきたいです」と熱い想いを語ります。

 誰もが自分の個性を活かして、スポーツを楽しむ未来へ向けて――。
 障がいに縛られることなく、スポーツをしている、観ている、支えている、それぞれの人たちの熱い想いが共鳴しています。

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Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

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