私たちの街のGROWING

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国体のレガシーを廃校の体育館へ、茨城県鉾田市のクライミング施設

茨城県鉾田市

東京オリンピックで初めて採用されたスポーツクライミングは、2人の選手がメダルを獲得するなど日本勢の活躍が記憶に新しく、人気が高まっているスポーツです。そんなスポーツクライミングを誰でも楽しめる施設が、茨城県の海沿いの街・鉾田市にあります。「鉾田市生涯学習館 スポーツクライミングセンター」です。施設に一歩足を踏み入れると目に飛び込むのは、本格的なリードウォールとボルダリングウォール、そしてそれらに果敢に挑戦する子ども達です。実はこのボルダリングウォールは、2019年に開催された「いきいき茨城ゆめ国体」で実際に競技に使われていたもの。ボルダリングウォールを国体終了後に廃校の体育館へ移設することで、かつての廃校はクライミングを気軽に楽しめる空間へと見事に生まれ変わりました。ボルダリングウォールを移設するまでの道のりや、地域住民に愛される現在の姿などを、鉾田市教育委員会 関田さんにお伺いしました。

国体が、鉾田市とスポーツクライミングが出会う転機に。

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生涯学習課 課長 関田さん

 「スポーツクライミングが鉾田市で盛んになったのは、2019年に茨城県で第74回国民体育大会(通称:いきいき茨城ゆめ国体)が開催されたことがきっかけです。県内のそれぞれの市町村で競技を開催することになり、鉾田市は、のちにスポーツクライミングと競技名を変えることになる『山岳競技』を開催することになりました。でも当時は競技の認知度が低く、最初は私自身『山も無い鉾田市で、なんで山岳競技をやるんだろう?』と思っていたくらいです(笑)。どういう競技なのかさえ知られていなかったんです」と関田さんは振り返ります。

 スポーツクライミングとは、クライミングホールドと呼ばれる大小様々な突起物がついた巨大な人工壁(クライミングウォール)を、自分の身一つで登る競技です。登る高さを競う「リードクライミング」、登る速さを競う「スピードクライミング」、そしてロープを付けずに高さ4~5m程度の壁で課題をいくつ登りきれたかを競う「ボルダリング」の3種目の総称のことを指し、またこれらの種目を組み合わせた「コンバインド(複合)」という種目もあります。一度落ちたら競技終了という緊迫感が漂うなか、一つでも高い位置のホールドを目指して力を振り絞る選手たちが見どころの競技です。

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 「開催が決まってからは、数年後の国体に向けて、鉾田市から選手を出そうという目標を掲げました。でも野球や陸上と違ってそもそも競技をやったことがある人がいないんです。まずは市民の皆さんが競技を体験できる場所を作ろうと、2014年に鉾田市の一番大きい体育館の中にリードクライミングのウォールとボルダリングのウォールを設置しました」

すべての小学校にスポーツクライミングウォールを。

 「また、鉾田市で育った子どもたちに一度はクライミングを体験してほしいという思いから、各小学校の体育館にもクライミングのウォールを設置しました。学校の先生方にご協力いただいて、体育の授業の一環としてクライミングの体験教室を行い、PR活動を進めていったんです。最初は『高いところまで登るのが怖い』と怖がっていた子どもたちも、いざやってみると楽しみながら体験してくれました。2回目の授業からは、クライミングを始める前から目が輝いてにこにこしていて、子どもたちの反応も本当に違うんです。コツを掴めば、初めてでも一番上まで登れる子どももいますし、きっと魅力が伝わったんでしょうね」

 国体の前から地道なPR活動を行い市民の関心を高めていたおかげで、満を持して開催されたいきいき茨城ゆめ国体は盛況に終わったといいます。

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 「実際にどういう競技か観客自身が体験して知ってもらった上で、全国のトップ選手のパフォーマンスを見られるというのはとても意義のあることだったと思います。山岳競技の国体の来場者数は例年5,000〜6,000人くらいですが、鉾田市では3日間で14,000人を記録しました。この国体をきっかけにスポーツクライミングを始めた方もいらっしゃいましたし、その後スポーツクライミングがオリンピックの正式種目に採用され、茨城県出身の野口啓代選手が東京オリンピックでメダルをとったこともあり、ますます盛り上がっています」

そんな国体の後に残されたのが、数々の選手が熱いパフォーマンスを繰り広げたボルダリングウォールです。国体のレガシーは移設することで生まれ変わりました。

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スポーツくじの助成金で整備されたボルダリングウォール

 「リードクライミング競技で使われた施設は、その後鹿児島県や三重県に移設する予定がありましたが、ボルダリング施設は、国体後に解体して撤収すると言われていました。それならちょうど閉校した小学校の体育館が空いているので、そちらに移設して、国体後のレガシーとして皆さんに使い続けてもらえないかと掛け合って、体育館に移設することが決まったんです。クライミング施設の移設については、議員の方々や市民の皆さんにも快く賛成いただき、スムーズに事業を展開することができました」

 そうして国体に使用されたボルダリングウォールは、鉾田市の旧徳宿小学校の体育館に移設され、2021年10月からは、「鉾田市生涯学習館 スポーツクライミングセンター」として一般開放されています。整備には、スポーツくじ(toto・BIG)の助成金が使われています。

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 「国体で使った施設をそのまま別のところに移設して、公共的に一般開放するという事例はなかなか無いので、そういったことができたのは助成金のおかげだと思います。国体で憧れの選手が使っていたボルダリングウォールを自分も使えるというのは貴重な体験ではないでしょうか。また移動式のクライミングウォールをレンタルして市民の皆さんにクライミングを楽しんでもらうイベントにも助成金を活用していました。スポーツクライミングセンターはオープンして間もないですが、市内の方に限らず、県内の方が利用することもあり、利用者の年齢層も幅広いです。利用にあたっては、事前に講習会に参加していただき安全基準を学んでいただいた方に認定証を発行しています。認定証を取得していただいた方であればどなたでも気軽にご利用できるようになっているんです」

 クライミングに興味を持つきっかけをつくるだけではなく、その後に練習の成果を発表する場を用意しているのも鉾田市の魅力です。2021年11月6日(土)には、鉾田市生涯学習館 スポーツクライミングセンターで、県内在住の小学4年生から高校生までを対象とした「第4回ほこまるカップ」を開催しました。リードクライミングとボルダリングに、子どもたちが真剣な眼差しで挑戦していき軽々と頂上まで登っていく姿は圧巻です。この大会にもスポーツくじの助成金が活用される予定です。

 参加した選手からは「お母さんがスポーツクライミングを始めた影響で、私も弟もスポーツクライミングを始めました。怖いという思いはないですね。それよりどこをどうやって登るか、家族みんなで話し合って協力しあって課題を達成できるのが楽しいんです」という声や「木登りが好きでクライミングも似ていて楽しい。この大会で他の人の登り方を見るのが勉強になります」という声が聞かれました。

 国体の担当になったことから、自身もスポーツクライミングを始めたという関田さんもその奥深い魅力を語ります。

 「スポーツクライミングの魅力は、パズルを組み上げる感覚と近いですね。単純にただ登っていくということだけではなくて、身体の使い方、身のこなし方、手足の出し方というものが正確にいかないと最後の終了点というトップのところまでなかなか行けません。身体と頭脳を使ってそこを攻略するという楽しみがありますね」と語ってくれました。

鉾田市を、スポーツクライミングの聖地へ。

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鉾田市生涯学習館 スポーツクライミングセンターはまだ開業したばかり。関田さんはこれからの展望を語ります。

 「鉾田市は茨城県の中央にありますし、茨城県のクライミング愛好家の聖地にしたいと考えているんです。今後は『スポーツクライミング第一回ユースフューチャーカップ鉾田』という全国大会も開催します。クライミングを通して、県外、関東、そして全国に鉾田の名前が知れ渡ればいいなと考えています。それに鉾田市内の競技人口も増やしていきたいですね。最近、鉾田市でクラブチームも立ち上がりましたが、将来、全国大会で鉾田市生まれの強い選手が出てきてくれるのを楽しみにしています」と笑顔で語ります。

スポーツクライミングを楽しむきっかけをつくり、学べる機会を育み、その成果を披露できる場をつくる茨城県鉾田市ならではの取り組み。かつて国体の競技に使われていたスポーツレガシーは、いま、鉾田市の人々の意識を変えるという目には見えないレガシーを引き継いでいます。

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Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
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