インタビュー

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インタビュー

スポーツする楽しみを再び 川口能活氏が“大人のサッカー教室”で伝えたこと

2018年シーズン限りで現役引退の川口氏が第2回「GROWING教室」で指導

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 まだ寒さが厳しい3月5日。日の暮れた東京・豊洲にあるフットサルコートで、仕事帰りの男女約40人がハツラツとした声を響かせた。この日、スポーツくじ(toto・BIG)は第2回「GROWING教室」を開催。「スポーツをするドキドキをもう一度取り戻そう」と集まった30~50代の参加者に、「ナイスシュート!」「無理はしないで!」と声を掛ける人物こそ、サッカー元日本代表GK(ゴールキーパー)の川口能活氏だった。「GROWING教室byスポーツくじ(toto・BIG)スポーツに再チャレンジ! 川口能活 熱血!大人のサッカー教室」に指導者として参加した川口氏は、スポーツをする機会が減った大人たちに、その魅力と楽しさを伝えた。

 スポーツくじの収益は、次世代有望選手の発掘育成、グラウンドの芝生化、地域のスポーツ施設の整備など、日本のスポーツ振興のために役立てられている。「GROWING教室」は、第一線で活躍しているスポーツパーソンを指導者として招き、スポーツの魅力(楽しさ、喜び)、スポーツの価値(自己実現、成長)を改めて体感する機会を提供することを目的として開催している。2018年6月にラグビー前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏が沖縄で実施した高校生約50人を対象としたラグビー教室に続き、今回が2度目の開催となった。

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 平成29年(2017年)にスポーツ庁が実施した調査(※)では、週1日以上運動・スポーツをする人の割合は、20歳以上男女の平均で51.5%だった。一方で、30代では45.4%、40代では42.2%、50代では45.5%となっており、ミドル世代のスポーツ実施率は比較的低い水準にあるという。男女別では、男性50代、女性40代が最も低く、女性40代は37.8%という結果だった。

 かつてはスポーツで爽やかな汗を流しながらも、現在は仕事や育児に忙しくなった世代に、もう一度スポーツをする楽しさやドキドキ感を味わってほしい。「大人のサッカー教室」が持つ目的に賛同した川口氏は、1998年のフランス大会からワールドカップ4大会連続出場を誇る、言わずと知れた日本サッカー界を代表するGK。横浜マリノス(現横浜F・マリノス)でプロデビューすると、2001年にイングランドのポーツマスFCに移籍。デンマークのFCノアシェランを経て、2005年にジュビロ磐田でJリーグ復帰を果たし、その後はFC岐阜、SC相模原でプレーした。43歳を迎えた2018年シーズン限りで25年の現役生活に幕を下ろし、現在は指導者としての活動をスタートしている。

 午後7時過ぎ、憧れの存在でもあった“川口先生”が登場すると、この日ばかりは残業をせずに集まったという同じミドル世代の“生徒”から「うわ~っ!」と大きな歓声が上がった。憧れだった日本サッカー界の名手が、「実は毎日練習に行くのが辛かった。朝起きるのが大変で……」と予想外の本音を明かすと、会場は一気に和やかな雰囲気に。それでも「身体を動かすことは習慣。動かさないと不安になってしまう」という川口氏は、「スポーツをすることで身体のリフレッシュだけではなく、精神のリフレッシュにもなります」と運動で得られる効果を説いた。

懸命に動く参加者に「皆さんのハードワークに心を打たれました」

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「大人のサッカー教室、頑張るぞ!」

「オーッ!」

 川口氏の掛け声に元気よく応じて始まった「大人のサッカー教室」。入念なストレッチを行った後に、2人一組となってハンドパスや左右の足を交互に使ったパス練習などを実施。フットサルコートをくまなく動き回りながら、序盤は「無理をしないで!」「怪我のないように!」と声を掛けていた川口氏だが、参加者は次第に軽やかでスムーズな動きを見せるようになった。シュート練習では、応援アンバサダーとして参加したサッカー解説者の松木安太郎氏がゴール前でパスを出す場面も。華麗なシュートや好セーブが続出し、川口氏からは「ナイスシュート!」「ナイスキーパー!」の声。「皆さん、思った以上に動けていますね。レベルが高いです」と驚きを隠せなかった。

 シュート練習の後は、8チームに分かれて5対5による4分間のミニゲームが行われた。レフェリー役を務めた川口氏は、ここでも「無理をしない」「怪我のないように」「楽しむ」をポイントに掲げて指導。久しぶりにスポーツを楽しむ参加者に感化されたのか、「笛の吹き方がまだ板に付いていませんね」という松木氏の声にも満面の笑みを浮かべながら、「GKが声を出して指示をしましょう!」「最近のサッカーは後方からのビルドアップ(攻撃の組み立て)が大切ですよ!」「GKのコーチングは神の声とも言われています!」とハイレベルなアドバイスを送りながら、自身も同世代と過ごす貴重な機会を楽しんでいる様子だった。参加者はこの日、初対面のメンバーばかりだったが、すっかり意気投合。試合中の声掛けはもちろん、休憩中の会話も弾み、時間はあっという間に過ぎていった。

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 約2時間にわたるイベントの最後に待っていたのは、参加者へのスペシャルプレゼントだった。ジャンケンで勝ち抜いた5人が、川口氏とのPK対決に挑戦。ゴールマウスに立ちはだかる“炎の守護神”は、現役さながらの軽快な動きを披露。サッカー歴25年以上である2人にこそシュートを決められたが、鋭い眼光でキッカーを圧倒した。また、自身もキッカーとしてPKに挑戦。ジャンケンで見事GK役を射止めた参加者を相手に、「ジュビロ(磐田)時代の2006年天皇杯以来」という貴重なシュートを繰り出したが、好セーブに阻まれて「これが僕の技術です……」と肩を落とした。

 久しぶりにスポーツをする楽しさに触れ、生き生きとした表情を浮かべる参加者に、「皆さんのハードワークに心を打たれました。一生懸命プレーする中でもサッカーを楽しむ姿に勇気を与えられた。僕も皆さんと楽しくプレーでき、心からよかったと思います」と川口氏。「今年はラグビーワールドカップ、来年には東京オリンピック(・パラリンピック)と、日本でビッグイベントが開催される中、スポーツを観る楽しみはもちろん、自分でスポーツをする楽しみをぜひ味わい続けてほしい」とメッセージを送った。

「親がスポーツを楽しむ姿を子どもたちにも伝えられたと思います」

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 参加したミドル世代の“生徒”たちは、川口氏の呼びかけ通り、スポーツをする楽しさを思い出したようだ。「すごく楽しかったです」と声を弾ませる甲斐茂行さんは、現在も週に1度は8キロのランニングをするというが、「これだけ大人数でスポーツをするのは本当に久しぶり。1人で走るのとは全然違う楽しさがありました」と振り返る。入社したての頃は仲間と連れ立って草サッカーに興じる時間もあったが、「家族と過ごす時間が増えたり、居酒屋に足が向いたりで、気が付いたらスポーツをする時間が減っていました」という。この日をきっかけに「サッカーが好きな気持ちが沸き上がった。久しぶりに観るだけではなく、自分でやってみようと思います」と話した。

 大学までサッカーを続け、GKをしていたという木川雅央さんは、「憧れの人です。神のような存在」という川口氏の指導を受けて感激の様子。数年前までは月1、2回のペースで仲間とサッカーをしていたが、最近はすっかり離れていたという。だが、実際に身体を動かすと「予想以上に楽しくて。動くと気持ちのスイッチも入った。怪我をしないように楽しみながらプレーできました。初めて会った方でもすぐに打ち解け、馴染むことができました。これをきっかけに、週1回以上はスポーツをしようと思います」と笑顔を浮かべた。

 数少ない女性参加者の1人、石田麻由紀さんは「川口さんにつられて、この教室に参加しました」と笑うが、約4年ぶりというスポーツ体験に充実の表情を浮かべる。「会社のフットサルチームに参加したことがある程度でしたが、本当に楽しかったです。自分でするスポーツって楽しいですね。50代の方も笑顔でプレーなさっていました。知らない方々とチームになってプレーするのも、大人になってからはなかなかできない体験。本当にいい経験になりました。また機会があったら参加したいです」と振り返った。

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 参加者との記念撮影を終え、「大人のサッカー教室」を締めくくった川口氏は「幸せで有意義な時間を過ごしました」と温和な笑顔を見せた。この日を振り返り、「今日参加した方々は部活全盛時代で、スポーツに対してハングリーでストイックにプレーしてきた世代。そういった人たちが、部活とは違うスポーツの楽しみを味わっていた。その姿が見られただけでもうれしいですね」と満足な様子。また、参加するお父さんを応援する子どもたちの姿にも触れ、「親がスポーツを楽しむ姿を子どもたちにも伝えられたと思います」と、スポーツをする本人だけではなく、周りにもたらす効果についても実感したようだ。

 日本サッカー史に残る名GKと過ごした2時間。スポーツをする楽しみを再発見した参加者たちは、充実の表情を浮かべて家路についた。

(※)平成30年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁実施)では、20歳以上男女の平均は55.1%(前年度から3.6ポイント増)である中、働き盛り世代は他の世代と比較すると低い水準にあるものの、30代は47.8%(同2.4ポイント増)、40代は46.7%(同4.5ポイント増)、50代は49.6%(同4.1ポイント増)となりました。

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川口 能活かわぐち よしかつ

1975年8月15日、静岡県生まれ。清水商業高校(現清水桜が丘高校)を経て、1994年に横浜マリノス(現横浜F・マリノス)入団。2001年からイングランド、2003年からデンマークでプレー。2005年にジュビロ磐田に移籍し、Jリーグ復帰。FC岐阜を経て、2016年からSC相模原に在籍。2018年限りで現役引退した。日本代表では1996年アトランタオリンピックで「マイアミの奇跡」を演じる。ワールドカップは1998年フランス大会から4大会連続メンバー入り。2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会で16強入りを経験した。国際Aマッチ出場116試合。現在は指導者としての活動をスタートしている。

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