私たちの街のGROWING

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私たちの街のGROWING

未来のオリンピアン・パラリンピアンを育てる、長野県の「SWANプロジェクト」

1998年冬季オリンピック・パラリンピックの開催地でもあり、数多くのオリンピアン・パラリンピアンを輩出する長野県。2018年平昌オリンピックでもスピードスケートやノルディック複合で長野出身のメダリストが誕生し、人々に大きな感動をもたらしました。冬季競技の環境に恵まれている長野県ですが、実は競技人口の減少という深刻な課題を抱えていました。ウインタースポーツに興味を持つ子どもたちが、競技に打ち込み、メダリストになる夢を叶えられるような環境を整えたい。長野県は2009年、競技団体の垣根を越えたタレント発掘事業「SWAN(スワン)プロジェクト」をスタートしました。

「長野」に魅せられた少女が、「平昌」で世界の頂点に

 平昌オリンピックのスピードスケートに出場した小平奈緒選手は、女子1000m銀メダルに続いて500mで金メダルを獲得しました。念願の表彰台に立った彼女は、表彰式後のインタビューで次のように語りました。
「自分が見ているこの景色は、清水宏保さん(同・男子500m金、1000m銅)や岡崎朋美(同・女子500m銅)さんが長野オリンピックで見た景色と一緒なんだ——」

 小平選手は長野県茅野市出身。1998年に開催された長野オリンピックは、当時小学5年生だった彼女にとって「この時見た感動が、一年一年私を成長させてくれた」と語るほど人生に大きな影響を与えています。彼女をはじめ、長野県出身者や在住者が数多く平昌オリンピックに出場しました。その数は日本選手団124人中27人。また平昌パラリンピックには12人が名を連ねました。
*長野県教育委員会公式サイト「平昌オリンピック」特設ページより

長野県関係(出身、所属、居住など)の平昌オリンピック出場選手(敬称略)
【スケート・スピードスケート】一戸誠太郎、ウイリアムソン師円、加藤条治、菊池彩花、小平奈緒、髙木菜那、長谷川翼、山中大地
【スケート・ショートトラック】神長汐音、菊池純礼、菊池悠希
【スキー・ジャンプ】岩渕香里、竹内択
【スキー・ノルディック複合】渡部暁斗、渡部善斗
【スキー・フリースタイル】西伸幸、渡部由梨恵
【スキー・スノーボード】今井胡桃、鬼塚雅、藤森由香
【カーリング】清水徹郎、平田洸介、両角公佑、両角友佑、山口剛史
【ボブスレー・スケルトン】小口貴子、髙橋弘篤

長野県関係(出身、所属、居住など)の平昌パラリンピック出場選手(敬称略)
【アルペンスキー】狩野亮、夏目堅司、三澤拓、小池岳太
【アイスホッケー】上原大祐、熊谷昌治、塩谷吉寛、中村稔幸、福島忍、堀江航、望月和哉、吉川守

冬の大空へと羽ばたく「金の卵」

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 冬季競技の優れたアスリートを途切れることなく輩出し続ける長野県ですが、長野県体育協会競技係長の松沢孝明さんによれば「近年はスキー、スケート、ソリなどに親しむ子どもの数が減っていて、競技人口にも影響が出ている」といいます。特にスケート人口の減少は深刻でした。
「30年ほど前でしたら、冬になると県内あちこちの小学校の校庭や田んぼに水をまいたスケートリンクが作られ、かなりの人数の子どもたちがスケートに親しんでいたものです」(松沢さん)
 ところが近年は、人口減少による人手不足(子どもの世話をする大人の不足)、思わぬ事故を防止する観点などから、お手製のリンクを作る学校が激減。また、学校体育におけるスケート授業の実施率は小学校2年生で47.8%、同3年生で40.3%。中学校では1.1%となり、ほとんど実施されていません(数値は平成26年度長野県教育委員会教学指導課が公表)。
「ですから一度も(スケート靴をはいて)氷の上に乗ったことがないという県民も、今では結構いると思います」(松沢さん)

 またスキーに関しては、学校体育での実施率が小学校6年生で84.6%と高いですが、中学校に上がると10%前後に低下しており、「スキーは小学生の時にやったきり」という県民が増えているようです(引用元は同上)。
「その理由には、(ゲレンデまでの移動を伴う)スキー授業のために取りやめた他教科の授業の埋め合わせが難しいことや、体育教師の全体数が減り指導が難しくなったことなど、学校側の事情もあると聞きます。冬季競技全般に言えることですが、用具代や施設使用料などの経済的な負担は大きく、スキーは特にそれに当てはまります。白馬村や飯山市、野沢温泉村などは全国有数のスキーどころですが、そういった地域でも、競技としてスキーを続ける子どもたちはどんどん減っているんです」(松沢さん)

 ウインタースポーツに触れる子どもが減れば、選手になりたいと夢を持つ子どもも減る。興味を持った子どもがいても、打ち込める環境がなければ大きく伸びるチャンスも減り、やがて競技そのものから離れていってしまう。

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 このような現状を打破すべく、長野県は2009年度(平成21年度)、競技団体の垣根を越えた事業、未来のメダリストを目指す子どもたちに夢とチャンスを与える「SWANプロジェクト」を発足させました。

 SWANとはSuperb Winter Athlete Nagano(素晴らしき冬季スポーツ選手・長野)を意味し、英語の「SWAN」から優雅に羽を広げる白鳥の姿も連想させます。将来、冬の大空へと羽ばたく「金の卵」を、長野県はいかに温め、育てようとしているのでしょうか。

長野オリンピック・パラリンピックのレガシーを生かして

SWANプロジェクトは、2017年12月に迎え入れられた9期生・10名を含め、現在(4〜9期生)総勢69名で活動しています。

 このプロジェクトの選抜対象となるのは小学4〜6年生、および高校生以上の男女で、毎年約60~80名いる応募者は1次・2次選考を経て合否を判断されます。小学生グループはスケート、スキー(スノーボードを含む)、リュージュ、スケルトン、カーリングを対象競技とし、中学校卒業までプログラムに参加できます。一方、高校生以上(年齢制限なし)のグループはボブスレー、スケルトン、カーリングの3競技で、プログラムは4年以内に修了します。なお小学生グループのうちスケルトンとカーリングの受講生は、中学卒業後引き続き高校生以上のグループを受講することも可能です。

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「選考の段階で、応募者の実績(例えば自己ベストタイムや大会成績など)も見ることはできます。でもその記録を見て上から順に合格を与えていくわけではなく、あくまでも応募者たちは発展途上だということを念頭に置いています。したがって選考で重視するのは心身の『伸びしろ』。特に意欲や志の部分で、この先自分がどうしたいのか、どんな決意があるのかというところを面接で必ず聞いています。アスリート(人)を育てるということは、『こう指導すれば、いつまでに必ずこうなる』と画一的にできることではありません。小平選手も、なかなか思うような結果が出ない時期もあったと思いますが、試行錯誤しながら努力を続けたことによって、この1〜2年で一気に勝つようになってきました。彼女は、目標達成のためにどんな練習をすべきか、どんな競技環境に身をおくべきかなどを自分でしっかり考えられるアスリートとして高く評価されており、心(意欲や志)が、将来の競技力の向上につながるということの好例でもあります」(松沢さん)

 自分がどうなりたいか、物事をどう捉えているか、どんな気持ちで周囲の人と関わっているか、といったパーソナリティは、選手の未来に大きく影響する。SWANプロジェクトはそのような考えに基づき、受講生を発掘しています。実際、競技経験がほとんどないにもかかわらず、「伸びしろ」を見込まれて合格した受講生もいるといいます。

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 このような「タレント発掘事業」は他県にもありますが、SWANプロジェクトは県外からも受講生を受け入れているのが特徴的です。現在も愛知県、滋賀県、兵庫県、東京都等で生活しながら、プログラム実施日に長野へ通う受講生もいます。

「雪や氷の上でやるスポーツですから、いつでもどこでも、というわけにはいきません。しかし、才能も熱意もあるけれど『近くにゲレンデやスケートリンクがない、世界を知る指導者がいない』という理由で他県の子どもや若者が夢をあきらめてしまうのなら、私たちは見過ごすことができません。この長野県には冬季競技に適した自然環境があり、また20年前のオリンピック・パラリンピックのレガシーである、質の高い指導者や施設があります。SWANプロジェクトは、これら長野県特有の資源を生かしながら、『金の卵』を発掘し、育んでいく事業なのです」(松沢さん)

SWANプロジェクトがもたらしたもの

 SWANプロジェクトの具体的な活動内容には、競技ごとの専門トレーニングだけでなく、競技の垣根を越えた共通プログラムがあります。共通プログラムは「体力テスト」「フィジカルトレーニング」「メディカルチェック」「メンタルトレーニング」などのほか、「スポーツ医学」「アンチ・ドーピング」などの座学、保護者向けの「栄養学」「コンディショニング(体調管理)」といった講座も行われています。

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 そして毎年1回「オリンピック教育」と題したオリンピック選手の講演が企画され、過去には小平選手、渡部暁斗選手(スキー・)、上村愛子さん(スキー・モーグル)などから直接話を聞く機会が設けられました。また日頃接する指導者たちも、オリンピック選手を育てた経験を持つ各競技のスペシャリストや、小平選手が所属する、相澤病院の予防医療の専門家など、世界レベルの経験と知見を持つ錚々(そうそう)たるメンバーが顔を揃えています。

 他競技の選手(受講生)と一緒にトレーニングをする効果は、おもに精神面で顕著に表れているようです。

「ある中学生は、自分の種目でいつも2位。1位も3位も取ったことがありません。SWANプロジェクトに入った頃は『このまま2番手でいけばいいや』という気持ちが見て取れました。ところが、他競技の受講生たちと共通のトレーニングをしてみると、周りの運動能力の高さに驚き、『もっと必死にならなければ、プロジェクト内で取り残されてしまう』と危機感を持ったようです。その受講生は他競技の選手から刺激を受け、考え方に変化が芽生え、競技専門トレーニングでも率先して取り組むようになりました」(松沢さん)

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 このような方針と様々な取り組みによって、SWANプロジェクトは、地域の強みを生かしながら若者たちに夢とチャンスを与え続けています。

「発足初年度に小学4年生だった受講生が、この春(2018年度)やっと大学生になる年齢です。SWANプロジェクトを経験した選手たちのこれからの成長、活躍に引き続き期待しています」

 そう語る松沢さんは、さらに「平昌オリンピックで精一杯戦った選手たちの姿を見て『私も、僕もやってみたい』と決意を強くした子どもたちには、ぜひSWANプロジェクトの門を叩いてほしい」と強く願っています。

スポーツとは、人と人とを結びつける触媒のようなもの

 日本スポーツ振興センターは、SWANプロジェクトに対し平成22年度以降スポーツくじによる助成を毎年度行っています。

「この規模のプロジェクトを継続的に実施するのは、県の財源だけでは困難です。スポーツくじの助成を大変ありがたく活用させていただいております」と述べる松沢さんは、長野県内の2つのJリーグクラブ(松本山雅FCとAC長野パルセイロ)にも触れ、次のように語ります。

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「長野県民にとってスポーツとは、人と人とを結びつける触媒のようなもの。県内にはJリーグの試合を楽しむことはもちろん、週末にみんなでスタジアムに集まって地元の選手を応援することを楽しみにしている人たちがたくさんいます。サッカー熱の高い長野県ですから、おそらくスポーツくじ(toto・BIG)の認知度も高いと思います」

長野県民のサッカーに対する思いは、スポーツくじの購入を通じて支援という形に変わり、様々なスポーツに情熱を注ぐ人たちにつながっています。

小平選手の目に映った景色を……

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 時は少し遡って、2017年12月2日。この日SWANプロジェクト9期生の開講式が長野市内で行われ、県内外の小学生10人に認定証が授与されました。スピードスケートで選抜された女子児童は、式典でこう意欲を述べました。

「小平奈緒選手のようなトップスケーターになりたい」

 小平選手が平昌の表彰台の真ん中から見た景色を、今度は次世代の選手たちが自分の目で確かめることでしょう。いつかきっとその日が来ると信じて、受講生たちは今日も白い息を弾ませています。

アンケートにご協力ください。

Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
なんとなく理解できた
理解できなかった
Q2

スポーツくじ(toto・BIG)の取り組みに共感できましたか?

とても共感できた
なんとなく共感できた
共感できなかった
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