病気で視界の一部が見えにくくなったことは、決して「良かったことではありません」と話す。だが、どんな状況でもポジティブに捉えるのが廣瀬流。「目が見えにくくなって気付けたこともあったと思います」と続ける。

「社会の中には障がいを持つ人が困ることがこんなにたくさんあるんだと気付きましたし、障がいを持っていなかった時よりも人に助けていただく場面が増えました。助けがないと生活できないことが多いんです。私、本当は人と話すのが苦手で、どちらかというと誰とも話したくないくらいでした（笑）。でも、障がいを持ってから病院やリハビリセンターで色々な人とお話ししたり、助けていただく機会が増えて、人と人との繋がりはすごく素敵だと思うようになりました。助けてもらうことが増えた分、それを当たり前だと思わずに、感謝する心を大切にしようとも感じています」

　人と人の繋がりや支え合うことの大切さは、スポーツに通じる価値でもある。「ずっと柔道をしていますが、辛い時に支えてくれる仲間がいて、練習させていただける場所があるから今、頑張れている。一人ではできない、支えてくれるものがあるからできる、それがスポーツだと思います」。

　そう感じるからこそ、スポーツくじ（toto・BIG）の収益による助成金が、トップアスリートの活動だけではなく、次世代アスリートの発掘や育成、地域のスポーツ大会・教室の開催や施設の整備など、広く日本のスポーツを支える役割を担うことに感謝する。

「コロナ禍の中で、スポーツは不要不急のものと見なされる風潮がありました。ただ、スポーツをすることでストレス発散できたり人と繋がれたり、あるいはスポーツを見ることで元気になったり勇気をもらえたりするので、私は社会の中でスポーツは大きな意味を持っていると感じています。勝つためにスポーツをする人もいれば、健康のため、楽しむためにする人もいる。色々な人がいる中で、どのスポーツにも共通して必要なのは練習してくれる仲間であり、練習や試合をする場所であり、応援してくれる人の存在。スポーツくじのように広くスポーツを支えてくれる仕組みがあることは、スポーツに携わるみんなの力になっていると思います」

　東京パラリンピック開催が日本にもたらした共生社会への関心と気付き。スポーツを通じて広まった理解が、レガシーとして社会に根付き、受け継がれることを願う。

「試合で海外に行くと、施設のバリアフリー化は整っていなくても、人がすぐに助けにきてくれる。そういう心のバリアフリーが進んでいるなと感じます。東京パラリンピックをきっかけに日本の施設も整いましたし、障がい者と健常者の交流も増えたので、心のバリアフリーがこれからも進んでいけばいいですね」

　人と人との繋がり。これこそが何よりも大事にしたい価値なのかもしれない。

（当記事は2022年6月に新型コロナウイルス感染症対策を行った上で取材・撮影を行いました。）