インタビュー

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インタビュー

5人制元日本代表はなぜ3×3で現役復帰したのか 「バスケ界に恩返しを」

名シューターに復帰を決意させた「3×3」の魅力とは

 3人でプレーするバスケットボール「3×3」(スリーバイスリー)。2020年東京オリンピックに採用された新種目として注目を集めている。スペースの少ない都市部でも気軽に楽しめる新種目(アーバンスポーツ)に40歳にして挑戦しているのが渡邉拓馬選手。5人制の日本代表でも活躍した名シューターだ。2016年に現役を退き、Bリーグのアルバルク東京のチームオペレーションアシスタントゼネラルマネージャー(以下GM補佐)を務めていたが、今年「3×3」選手として現役復帰。チームは日本一に輝いた。5人制と3×3で日本一になった唯一の選手である。渡邉選手が現役復帰を決めた理由は何だったのか。そして2年後の東京オリンピックへの想いを聞いた。

 「3×3」とはいったいどんな競技なのか、5人制のバスケットボールと何が違うのか。主要なルールを以下に説明していこう。

【3×3と5人制の主なルール】

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※「ツーポイントラインの外に出る」というのは、ボールを持った選手のどちらの足もツーポイントラインの内側についていない状態を指す
※「チェックボール」コート内のツーポイントライン外側の頂点付近で、守備側になるチームの選手が攻撃側になるチームの選手にボールをパスあるいはトスして渡す
参考:JBA 3x3オフィシャルサイト(http://3x3.japanbasketball.jp/
◇3×3ルール解説動画:http://3x3.japanbasketball.jp/what-is
◇TACHIKAWA DICE.EXE:http://tachikawa-dice.tokyo/

 5人制とは全く違う競技だという声もあるが、渡邉選手はきっぱりとこう言う。

「別競技だとは思っていません。まず、5人制のスキルがないと通用しない。ただ3人なので、一人ひとりの責任感は5人制の時よりも大きいです。一つのミスが影響します。5人制ならほかの選手がカバーしてくれますが、3人だとそうはいきません。今までの3×3の印象は、どちらかというとストリートのイメージ。細かい戦術や駆け引きよりも、運動能力頼みのイメージでした。自分には5人制の経験があります。だからそこを生かしたいと思った。5人制での経験を3×3に吹き込みたかった。パスは少しタイミングをずらすだけで通るようになる。そういう(5人制で培った)新しい風も入れたかった。世界でもそういうプレーが主流になっています」

 これまでの3×3の文化に、5人制の経験を吹き込む。それが自身に課された役割だと理解している。そしてその試みは確実に浸透しているようだ。もちろん渡邉選手自身も3×3に対応するために、新たな試みをしている。

「ラグビーほどではありませんが、3×3は激しいコンタクトが頻繁にあります。それだけに息もすぐに上がる。試合は10分間ですが、体の疲労は5人制とは違いますね。フィジカルの面でも違います。コートが狭いため走る距離は短くなるので、(5人制と)体型も変わってくる。3×3はがっちりした選手が多い。だから、自分も5人制でやっていたトレーニングとは別のトライをしようと思った。同じ年代の方に影響を受けました。例えば、(ハンマー投げの)室伏広治さんのトレーニング方法を取り入れたりしています。単純な筋力だけトレーニングではなくて、関節などの細かい部分のトレーニングもしている。今の自分にはそちらの方が必要かなと思っています」

バスケットボール界への恩返しの想いから復帰へ

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 一度は現役を退きながらも、40歳にして再び第一線で活躍する渡邉選手。5人制で国内リーグの頂点を極めた男が、再び3×3の世界に身を投じた裏には一体何があったのだろうか。

 2016年の現役引退後は、Bリーグのアルバルク東京のGM補佐を務めていたが、翌年の10月に転機が訪れた。アルバルク東京が、3×3チーム「立川ダイス(TACHIKAWA DICE.EXE)」とスポーツによる地域活性化に関する連携を推進するとともに、スポーツ・教育・観光・文化・経済の発展に貢献し、地域社会の発展・振興を図ることを目指し協定したことがきっかけだった。

「アルバルク東京のGM補佐として1年と少し活動する中で、自分はバスケットボール界に貢献できているのか疑問に感じていた。もっと貢献できるんじゃないかという想いが出てきた。やっぱりバスケットボールを多くの人に知ってもらいたい。特に子どもたちに魅力を伝えたい。自分がもう一度コート上でプレーをして、魅力を伝えたいなと。そこで、立川を盛り上げようという動きがちょうど出てきた。それなら、ステージは違うけど取り組んでみようと思った。オリンピックの実施種目にもなっていたので、やるからにはオリンピックを目指して覚悟をもって取り組もうと決めました」

 誤解されがちだというが、3×3が東京オリンピックの新種目になったから復帰したのではない。根底にある想いは、バスケットボール界への恩返しだったという。バスケットボールを通じて子どもたちからお年寄りまで、家族を対象にした活動をしていくことで、人の温かさや思いやり、協調性の重要さを伝えていきたい――。そんな想いを持ちながら、GM補佐として子どもたちへ指導を続けていく中で、魅力を知ってもらう形の一つとして自身がコートに立つことを選んだのだ。

 現役を離れて1年以上が経過していたが、復帰する以上は生半可な覚悟ではできない。パフォーマンスを取り戻そうと、ハードなメニューで体を追い込んだ。途中で怪我もあったが、第一線で動けるだけのコンディションを取り戻していった。同時に、現役復帰するにあたり、最も重視していたのはメンタル面だという。

「5人制のときは責任感、使命感にかられてプレーしていた。本当に気持ちが疲れていました。だけど海外の選手は違う。だから復帰後は一番、自分が楽しんでプレーしようと思った。真剣味がないと言われてもいいので、楽しもうと思っています。それは実現できたかなと。今は純粋にバスケを楽しめています。子どもたちにも純粋な思いでバスケが楽しいよと言えます。こういった感覚でプレーするのは初めての経験かもしれません」

 5人制時代は重圧を感じるあまり、いつしかバスケットボールを楽しむ気持ちを忘れていった。今は違う。心から競技が楽しいのだと、柔和な笑みをのぞかせながら強調した。

 では、3×3を観戦する側はどう楽しめば良いのだろうか。渡邉選手はこう解説した。

「3×3は5人制よりもさらにお客さんとの距離が近い。スピード、迫力もそうですが、選手の表情、その試合にかける想いが伝わりやすい。そういったものを感じて欲しいですね。子どもたちにとっては、本物を身近で体感できることです。選手との距離の近さが一番の魅力です。音楽も流れていて演出もオシャレ。初めて見る方、初心者の方にも入りやすいかなと思います」

東京オリンピックには「出たい」「でもそれだけではない」

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 東京オリンピックが近づき、注目度は高まってきているが、まだ3×3自体の認知度は高くないのが現状だ。オリンピック後も含めて、今後、3×3が普及・発展していくためには何が必要なのだろうか。渡邉選手は発信者としての自覚を胸に、こう言葉をつづけた。

「まずは、3×3はバスケットボールをプレーする子どもたちにとっても、良い練習になることを伝えていきたい。基本を身につけることができると思います。あとは今の日本と世界との距離。これがどのくらいなのかを発信する人もいない。自分が(3×3の世界に)足を踏み入れたのは運命だと思っています。アルバルク東京で今の立場になってから立川ダイスとの協定が決まったのですから。現時点で世界との差は感じる。全然違います。日本は遅れている。クラブにも良い選手を海外から呼んで、良いものを海外選手から吸収して、日本なりに変えていくような順序で強化していく必要があります。こういったことを自分がどんどん発信していきたいと思っています」

 3×3の最新の日本の世界ランクは、男子は3位で女子は9位(2018年12月1日現在)。世界のトップは、決して手の届かないところにいるわけではないのだ。「ちょっとしたきっかけがあれば上にいけると思います」と話す言葉には説得力がある。

 今後、更に3×3が人気のスポーツとなり普及・発展していくためには環境の整備が欠かせない。その一翼を担っているもののひとつに、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金がある。スポーツくじの収益による助成金は、地方公共団体が保有するスポーツ施設にバスケットゴールを設置することにも役立てられている。その助成実績は、平成30年度までに延べ200件以上、累計助成金額は約10億円以上にのぼる。また、3×3の競技普及に対しては、5月~9月に行われた日本バスケットボール協会主催の「3×3 Japan Tour」の開催にも役立てられている。渡邉選手は感謝の念とともに、次のように語っている。

「競技をする側にとっては本当にありがたいことです。こういった支援があることを理解していない選手も多いと思う。競技の普及を目指していく身として大切なことは、このような支援により活動ができているということをどんどん発信していくことです。試合の開催にも助成金が使われているということは、参加する選手は知っておかないといけない。プレーするだけではなくて、色々な人が関わり、支えてくれていることを感じながら、背負いながらプレーしていかないといけないと思いますね」

 競技の普及・発展を誰よりも願う渡邉選手。5人制、そして3×3――。2つの競技に渡り、長く世界と渡り合う40歳に、最後に今後の目標を聞いた。

「東京でのオリンピック……そりゃ出たいですよ。出てもっと競技をアピールしたい。でもそれだけではないんです。出られなくても伝えていくことはできる。出られたら嬉しいですが、3×3の魅力を“伝えたい”という想いは変わらず持ち続けたいと思っています」

 3×3の“伝道師”としての使命感を胸に、楽しみながら、東京オリンピックまでの道のりを渡邉選手は歩んでいく。

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取材当日のシュート練習では、スタッフに声を掛けられるまで、17本連続でシュートを決めた。ここまで正確に決められる選手は世界でも一握りだという。

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渡邉 拓馬わたなべ たくま

1978年10月7日、福島県出身。現役引退後、Bリーグ・アルバルク東京チームオペレーションアシスタントゼネラルマネージャーを経て、現在は同チームの普及マネージャー兼立川ダイス(TACHIKAWA DICE.EXE)で選手としてプレー。両親の影響でバスケットボールを始める。福島工業高等学校時代には日本ジュニア代表のエースとしてアジアジュニア選手権3位に貢献。全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会(ウィンターカップ)では田臥勇太選手(リンク栃木ブレックス)を擁する能代工業高等学校(秋田)に決勝で敗れ準優勝だったが、大会得点王に輝く。卒業後は拓殖大学に進学し、4年連続で関東大学リーグの得点王に輝く。2001年にトヨタ自動車に入社。日本代表に選出され、アジア選手権、アジア大会などに出場。2012年に日立サンロッカーズに移籍。2014年にNBDL(ナショナル・バスケットボール・デベロップメント・リーグ)のアースフレンズ東京Zに移籍。2015年にトヨタ自動車アルバルク東京に復帰。2016年に引退後は同チームのGM補佐を務めたが、2018年に3×3チーム立川ダイスに選手として復帰。競技普及に力を注ぎながら2020年の東京オリンピック出場を目指す。

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Q1

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