インタビュー

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インタビュー

「心も身体も健康に」元ショートトラック選手が伝えたいウオーキングの魅力

元ショートトラックスピードスケート選手の勅使川原郁恵さんとウオーキングの出会い

「ウオーキングは心も健康になって、身体も健康になりますね」

 周囲を明るくパッと照らすようなハツラツとした声で語るのは、元ショートトラックスピードスケート選手の勅使川原(てしがわら)郁恵さんだ。オリンピックには1998年の長野大会、2002年のソルトレークシティ大会、2006年のトリノ大会と3度出場したオリンピアンは現在、22の資格と免許を取得し、ヘルスケアスペシャリストとして活動している。幅広い活動の中でも、語り始めると「すごく熱くなってしまうんですけど」と笑うのが、健康ウオーキング指導士として普及活動に努めるウオーキングだ。

 現役の頃から「実はウオーキングはすごく重要視している運動でした」と振り返る。専門としたショートトラックは、室内スケートリンクで1周111.12メートルのトラックを滑って順位を競う競技。ゴールだけに焦点を合わせて滑走する勝負の前に、落ち着いてレース展開を組み立てたい。そんな時、スケート場の周りをウオーキングしながら、頭の中を整理していたという。

「国際大会に出るようになってからは、スケート場の周りの環境も自分の味方にしたいなと思っていました。なので、現地に行くと必ずウオーキングをして、スケート場の周りの生活や空気感を自分の中に取り入れて、大会に臨んでいました」

 そんな勅使川原さんが「ウオーキングの魅力にどっぷりハマった」のは、スポーツキャスターに転身後、初めて臨んだ仕事がきっかけだった。江戸時代に整備された五街道の一つ、中山道を日本橋から京都まで2か月半かけて踏破。初めのうちは、長距離を歩くと疲れや足の痛みを感じていたが、ある日、自分が歩く映像を客観的に見て、気が付いた。

「歩くフォームが崩れているから疲れるのかもしれない」

 姿勢を正しながら歩く意識を持ち始めると、自然と身体の疲れが減り、次の日もまた歩く活力に溢れた。また、「ウオーキングをしていると心が落ち着いたんですね。心の整理の時間にもなったので、身体も心も健康になったと実感しました」と話す。心身の健康を保つためにウオーキングが「とても大事なことだと気付いた」という勅使川原さんは、一人でも多くの人に魅力を伝えたいと“伝道師”になった。

「五感をフルに使える」ウオーキングの魅力とは…「毎日違う発見を得られる」

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 今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、不要不急の外出を控えるステイホームが実施される中、健康維持のためにウオーキングを始めた人は多いだろう。せっかく始めたウオーキングを長く続けてほしいと願う勅使川原さんが、楽しむコツを教えてくれた。

「ウオーキングは四季を感じられるし、地域の方々とコミュニケーションを取ることで、時間を贅沢に使える。風を感じたり、植物の匂いを感じたり、五感をフルに使えるんですね。その中で、私は何かを発見することが楽しいと思っています。住み慣れた地域でも歩いてみないと分からないこと、発見できないことがたくさんある。お店を見つけたり、ちょっとした路地を見つけたり、お花を発見できたり。毎日違う発見が得られるので、それを楽しんで歩くと長続きすると思います」

 勅使川原さん自身、中山道を歩いた2か月半は毎日、違う植物を発見し、絵日記に残すというミッションを持って臨んだ。その結果、同じ植物が続くことはなく「『あ、この花見たことがない!』と毎日ウキウキしていました」。その時、描きためた絵日記は「今では宝物になっています」と笑顔を見せる。

 ウオーキングをする時のポイントは、歩き出す前の「立ち姿勢から見直すこと」だという。猫背でも反り腰でもウオーキングを始めると身体に負担がかかってしまう。「しっかり背筋を伸ばして、骨盤を立てる感じでお腹を引き締める姿勢を確認した上で、歩き出すのが重要です」と話し、全身が映る鏡で姿勢の確認を勧める。勅使川原さんはウオーキング中も建物のガラスに映る自分の姿を見て、「背筋は伸びているかな、歩幅は狭くなっていないかな、ひざの角度は大丈夫かな」とチェックを欠かさないそうだ。

 もう一つ、ウオーキングをする際は「普段歩くよりも少し歩幅を大きくするといい」と話し、無理なく歩幅を広げるポイントを教えてくれた。

「皆さん、足をつく時は踵から着地すると思うんですけど、その足を蹴り出す時に指先をしっかり使って押し切ると、自然と歩幅が広がるんですよ。歩幅が狭い人をよく見ると、指先を使っていない歩き方をしています。できるだけしっかり親指を使って、最後は大地を掴むように蹴り出す。指先を使っているか確認していただくと分かりやすいかもしれません」

「ウオーキングはスポーツの中でも基本の基本」

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 姿勢を正して歩くという、至ってシンプルなスポーツだからこそ、疎かにはしたくない。「ウオーキングはスポーツの中でも基本の基本だと思うんです」と勅使川原さんは続ける。

「例えば、スポーツ選手が怪我をした時、リハビリでまず最初に始めるのはウオーキングです。ウオーキングからゆっくり身体を慣らして、徐々に負荷を掛けていく。そう考えると、基本となるウオーキングは大事にしなければならないし、基本がしっかりすることで怪我防止やスムーズなパフォーマンスの発揮に繋がると思います。だから、とても重要なんです」

 アスリートに限らず、一般の人々が健康を維持するためにウオーキングを始めたり、生活習慣病と診断された人々に医師がウオーキングを勧めたりするのもまた、人間にとって「歩く」ということが大切な運動の一つだからだ。「正しい姿勢で歩くと骨盤の位置が整い、全身の筋肉が刺激されるので、内臓も正しい位置に戻って、生活習慣病の改善に繋がることもあるんですね。ウオーキングはすごく奥が深いと思います」と勅使川原さんは言う。

 ウオーキングの良さは、子どもから高齢者まで「いつでも誰でもどこでもできる」こと。だからこそ、勅使川原さんは「日常の歩きをエクササイズに変える感覚で、とにかく姿勢を正して歩くことに重点を置いています。そうするとウオーキングのために時間を使うプレッシャーを感じずに、身体の変化を感じることができると思います」と、ちょっとした発想の転換を勧める。

スポーツを通じて得られる「自己肯定感や自信は、すごく重要なキーワード」

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 スケート選手として一線を退いた後も、ウオーキングを通じてスポーツと共に歩む日々。「スポーツを通じて、自分を知ることができると思っています。自分を感じられる時間が作れるんですね」と続ける。

「スポーツをしていると、自分の気持ちの浮き沈みが少なくなると思います。気持ちをコントロールする能力がアップするな、と。精神的にも強くなって、チャレンジ精神が上がっているのを感じます。

 また、スポーツをする人は、目標を持っていることが多いと思います。私もスケートをしていた時は、全日本選手権で勝ちたいとか、オリンピックに出たいとか、そういった目標に向かってピークを作るために、スケジュール管理をしていました。オリンピックだったら、次の大会を迎えるまでの4年間をどう過ごすか、本番までに今はどういう段階にあって、どういう準備をするべきなのか。そういうスケジュールの組み立てが得意になりました」

 さらに、その目標を達成することで得られる感覚が、人間の成長にも大きく関わると考えている。

「スポーツを一生懸命練習して優勝したり、目標を達成したりするという成功例を自分の中で得ることで、自己肯定感が向上するんですね。私も優勝することで、自分を認められたり、自信を持てたりすることができました。こういう自信は、これから成長する子どもたちにとって、すごく重要なキーワードになると思いますし、社会で働く方々にとっても自己肯定感を持つことは重要です。心と身体のバランスを保つことができるのが、スポーツの良さでもあると思います」

 今後も引き続き、生涯スポーツとして「いつでも誰でもどこでもできる」ウオーキングの魅力を広めていきたいという。ウオーキングの魅力に触れられる機会として、地方公共団体やスポーツ団体が行うウオーキング教室や大会など、幅広い層の人々がスポーツに親しめる環境を整えるために、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金が役立てられている。

 新しいプロジェクトとして、親子でコミュニケーションを深めながら、運動、食事、学び、自然体験を得られるプログラムを立ち上げる準備を進めているという勅使川原さん。そのアイディアも、ウオーキングをする時間の中から生まれたのかもしれない。

(リモートでの取材を実施)

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勅使川原 郁恵てしがわら いくえ

1978年10月27日、岐阜県生まれ。3歳からスケートを始め、中学2年生の時に全日本ショートトラックスピードスケート選手権大会で総合優勝を飾り、高校1年生からは5連覇を果たした。愛知女子高等学校から中京大学に進学。1996年の世界ジュニアショートトラックスピードスケート選手権大会では、日本人として唯一、総合優勝を達成。冬季オリンピックは長野、ソルトレークシティ、トリノの3大会に出場し、トリノを最後に現役を退いた。引退後はスポーツキャスターに転身し、健康ウオーキング指導士をはじめ22の資格と免許を取得。ヘルスケアスペシャリストとして幅広く活動している。

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Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
なんとなく理解できた
理解できなかった
Q2

スポーツくじ(toto・BIG)の取り組みに共感できましたか?

とても共感できた
なんとなく共感できた
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