インタビュー

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インタビュー

最強ペアが語るシャトルを打つ魅力 競技生活で大切にしてきた考え方とは

世界ランク1位のペアが語る壁を乗り越えるために大切にしてきたこと

 バドミントン女子ダブルスで世界ランク1位(2021年3月時点)の福島由紀選手と廣田彩花(さやか)選手のペアは、ひたむきにシャトルを打ち続けてきた。2017年から世界バドミントン選手権大会で3年連続準優勝。2020年3月の全英オープンで初優勝するなど多くの国際大会で結果を残した。「フクヒロ」と呼ばれ、東京オリンピックの金メダル候補と期待される2人。競技人生でそれぞれ大切にしてきた想いがある。

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 福島選手が挙げたのは「負けず嫌い」だ。バドミントンを始めた幼い頃、空振りをすれば自然と悔しさがこみ上げた。父親がラリーでフェイントを仕掛けてくると返せない。「それに対してとてもムカついて(笑)。負けたくなかったので『もう!』と怒りながらプレーしていました」。遊びの中でも本気になった。

「この人に勝ちたい、もっと強くなりたいという気持ちは、小さい時からずっと変わりません。そこは全く揺るがなかったです」

 地元の熊本県から、強豪の青森山田高等学校に進学。初めての寮生活でホームシックになった。当然、身の回りのことは全て自分でやる生活。練習はもちろん、上下関係でも厳しさを経験した。1年生の時、インターハイ(全国高等学校総合体育大会バドミントン競技大会)のメンバーに入ることができなかった。「帰りたい」。携帯電話を握りしめ、母親に弱音を吐くことも日常だった。

「でも『頑張れ』としか言われないので、ただ話を聞いてもらっていました。その時の練習はゲーム形式のものが多かったので、勝ち負けがある。悔しい気持ちを絶対に忘れず、目の前の人たちに立ち向かっていました。高校3年生の時に青森県でインターハイが控えていたので『その目標があるから、いま頑張ろう』と意識しながらやっていましたね」

 一方、廣田選手は「一生懸命」を貫いてきた。中学生の頃、全国中学校体育大会に出られず「それが凄く悔しくて」と奮起。「自分と向き合って、コートに入ったらどんな時でもしっかり一生懸命に」とレベルアップしてきた。実業団に入った後、1学年上の福島選手とペアを結成したが、リオデジャネイロオリンピックの出場を逃し、2016年4月に一時的にペアを解散した時も心の火は消さなかった。

「あの時が一番、悔しい気持ちがありました。でも、そこで終わっていったらそこまでですし、自分が置かれた立場でしっかり一生懸命やっていれば、また福島先輩と組めるのではないかなと思っていました。逃げずに向き合って、毎日積み重ねていこうという気持ちでした」

一時的なペア解散がもたらした成長のきっかけ

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 結果的に約3か月後に再結成したが、フクヒロペアにとってこの期間がターニングポイントになる。「ペアを解散する前は福島先輩に頼り切っていた部分がありました。解散して自分が変わらないといけないと感じました」と廣田選手。自信がなく、いつも先輩の言うことを聞いてばかりだったが、勇気を出して自分の意見を伝えるようになった。

 福島選手も「改めて廣田と組み直した時に凄くしっくりきました。前よりも凄くコミュニケーションを取るようになったと思います」と実感。コミュニケーションの重要性を学んだことも、スポーツを通じて成長したことの一つだ。ダブルスに取り組む高校生など、若い選手に向けてアドバイスを送ってくれた。

「ダブルスは1人でやるものではなく、2人が一つになった結果、力を発揮できるものだと思います。パートナーがミスをして、ムカついたり、落ち込んだりすることもあると思いますが、片方だけがずっとミスをしているわけではありません。どう声をかけたらパートナーの気持ちが上がるのか。互いに寄り添うような関係性になれば絶対に強いと思うので、そこは心がけてほしいと思います」

 昨年(2020年)は新型コロナウイルス感染症の影響で多くの試合が中止となった。拠点を置く岐阜県の体育館は一時閉鎖。3月末には東京オリンピックの1年延期が決まった。「当たり前」だった生活が一変。廣田選手は「やっぱりバドミントンが好き」という想いと周囲のサポートの大きさを再認識し「(感謝の想いを)自分はバドミントンで表現するしかない」と燃えている。

 2020年10月には、世界バドミントン連盟ワールドツアー・デンマークオープンに出場。コロナ禍になって初めての試合だったが、試合がない期間も基礎練習を徹底してきたことが実を結び、優勝できた。「(コロナ禍でも)2人でコートの中で話し合いながらやれていたことが、しっかり結果に出た」と廣田選手。12月の全日本総合バドミントン選手権大会も制し、ブランクを感じさせなかった。

 日々、バドミントンと向き合ってきたフクヒロペアをはじめ、選手の成長や競技の普及・発展を支えているものの一つが、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金だ。バドミントンコート設置事業にも活用され、2人が育った熊本県の八代市総合体育館もその一つ。小学生、中学生の時は試合で頻繁に利用していた場所だ。

 福島選手は「勝てば全国大会に出られるという大会で優勝することもあったので、凄く思い出深い体育館ですね」と回顧。実業団の試合会場にもなっていて「こんなに凄い人たちがいるんだ。自分も強くなりたい」と間近でトップ選手のプレーに魅了された。また、助成金は少年少女のバドミントン教室にも活用されており「子どものうちに正しい打ち方を教わる環境があるのはいいこと」と日本のスポーツに与える意義を明かす。

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 一方で、バドミントン界の課題も感じている。屋外では風の影響を受けやすいため、体育館のほうがプレーしやすいが、コロナ禍の影響もあり、一般の人たちは簡単に利用できない場合も多いそうだ。「もっと体育館があれば、ジュニアの選手たちが練習できる環境も増えていく。バドミントンを始めた子の中で(体育館が使えず)辞めてしまう子もいたという話を聞きました」。自身が夢を育んだように、少しでも多くの子どもたちがプレーできる環境が増えることを望んでいる。

リオデジャネイロオリンピックを見て目標が明確に

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 コロナ禍でも社会を盛り上げるため、スポーツにできることは何だろうか。廣田選手は「元気や勇気を届けること。たくさんの人に自分たちのプレーを見てもらいたいですし、少しでも元気を届けられたら」と話す。絶好の舞台は、出場を確実にしている東京オリンピック。2人が目指してきた舞台だ。

 強くオリンピックを意識し始めたのは、リオデジャネイロオリンピックの時だという。「タカマツ」こと高橋礼華(あやか)選手と松友美佐紀選手のペアが日本バドミントン界初の金メダルを獲得。先輩の活躍をテレビで見守った福島選手は当時を振り返る。

「それまでもオリンピックに出たいという気持ちはあったのですが、いま思うとアバウトだったんじゃないかなって。ぼんやりしたものだったと思います。でも、リオデジャネイロオリンピックでタカマツさんたちが金メダルを獲った瞬間を2人で見ていた時に『自分たちにもできるんじゃないか』と思わせてもらいました」

 競技普及に向けて、東京オリンピックはバドミントンの魅力を最大限発信できるチャンス。福島選手が思う競技の魅力の一つが「スピード感」だ。「速いラリーの中でも駆け引きがあり、面白いと思ってもらえると思います」。幅広い年代がプレーできるスポーツでもある。より多くの人に興味を持ってもらうため、廣田選手もラケットを振る。

「バドミントンも少しずつメジャーになってきていると思いますが、まだまだ面白さを伝えていきたいです。自分たちにできるのはプレーで魅せること。結果で恩返ししていくことしかできないので、そこに全力を尽くしていきたいと思っています」

 目標を問われると、2人は「金メダルです」と迷いなく口をそろえた。日本勢の連覇が期待される女子ダブルス。フクヒロの2人は想いを込めてシャトルを打つ。

(リモートでの取材を実施)

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福島 由紀ふくしま ゆき

1993年5月6日生まれ。熊本県八代市出身。9歳でバドミントンを始め、中学3年生の時には全国ベスト16。青森山田高等学校では3年生の時にインターハイ女子シングルス準優勝、女子ダブルス優勝。実業団のルネサスバドミントン部(現くまもと再春館製薬所バドミントンチーム)入部後、廣田選手とダブルスを組み、2017年から3年連続で世界バドミントン選手権大会銀メダル。2017、2018、2020年の全日本総合バドミントン選手権大会で優勝。2020年全英オープンで優勝。

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廣田 彩花ひろた さやか

1994年8月1日生まれ。熊本県和水町出身。5歳でバドミントンを始め、玉名女子高等学校を経て2013年にルネサスバドミントン部入り。福島選手とのダブルスで徐々に才能が開花。現在は福島選手とともに2018年5月に岐阜トリッキーパンダース(現アメリカンベイプ岐阜)、2020年6月に丸杉Bluvicへ移籍。

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