インタビュー

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インタビュー

「音」が握る勝負の鍵 静寂から生まれる熱い攻防・ゴールボールの魅力とは

1チーム3人の選手が幅9メートルのゴールを目掛け、ボールを投げ合うパラスポーツ

 ゴールボール、というスポーツをご存じだろうか。視覚に傷害を受けた傷病軍人のリハビリテーションプログラムとして考えられたボール競技で、1946年にヨーロッパで誕生。徐々に競技人口を増やすと、パラリンピックでは1972年のハイデルベルク大会で公開競技となり、1976年のトロント大会で正式競技となった長い歴史を持つ。

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 鈴の入ったバスケットボールとほぼ同じ大きさのボールを転がすように、相手ゴールを目掛けて投げ合い、前後半各12分で得点を競う。バレーボールと同じ広さのコートには両端に幅9メートルのゴールが設置され、コートには1チーム3人の選手が出場。視力や視野などの障がいの程度で差が出ないように「アイシェード」と呼ばれる目隠しをつけるため、選手は全員が完全に視覚を塞がれた状態でプレーする。

 ゴールボールは、日本国内ではアイシェードをつければ晴眼者(視覚に障がいのない者)も視覚障がい者と一緒に試合に出場できるため、みんなが楽しめるユニバーサルスポーツとしても注目を浴びている。

 日本では、1982年にデンマークのスポーツコンサルタントのクラウス・ボス氏が東京都立文京盲学校で紹介したのが最初であるが、本格的な普及活動が始まったのはその10年後の1992年のことだった。その後、1994年に開催されたフェスピック北京大会(アジアおよび太平洋地域の障がい者スポーツの総合競技大会)に代表チームを結成して初参加すると、そこからメキメキと実力がアップ。特にパラリンピックにおける女子チームの活躍は目覚ましく、2004年アテネ大会では初出場で銅メダルに輝くと、2012年ロンドン大会では金メダル獲得の快挙を達成。ここまで出場した4大会全てで入賞を果たしている。

 今年(2021年)8月に予定される東京パラリンピックでも活躍が期待されるが、新型コロナウイルス感染症の影響により昨年から大規模な大会は軒並み中止・延期となってしまった。そんな中、2月6日から7日に開催された「2021ジャパンパラゴールボール競技大会」(千葉ポートアリーナ)では、日本代表強化指定選手たちが久しぶりの実戦に臨んだ。

 パラリンピックに4大会連続出場中の小宮正江選手は「たくさんの方々にご尽力いただき、大会を開催していただけた。これまでの練習の成果を発揮できるチャンスをいただき、心より感謝しています。とても幸せだと思います」と感謝の言葉を紡ぐ。2012年ロンドン大会金メダルチームの一員でもあった欠端(かけはた)瑛子選手は「1年ぶりの大会で、大会の雰囲気を味わいながら、自分たちの課題や現状をしっかり把握できた大会になりました」と手応えを語った。

競技の肝となる「音」 ボールの鈴の音や相手の足音などで次のプレーを瞬時に判断

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 緊急事態宣言が発令された昨年4月から5月にかけては日本代表としての活動自粛を余儀なくされた。2008年北京大会から日本代表としてプレーする浦田理恵選手は「今まで合宿したり練習したりすることが当たり前に感じてしまっていた。本当はすごく貴重なことで、平和な世の中でなければスポーツで世界を目指すことは難しいと改めて感じさせてもらいました」と実感。昨年6月から再開した日本代表合宿では、競技ができる喜びを一層強く噛みしめている。

 活動自粛中には強化選手、コーチ、トレーナーらがオンラインで繋がり、みんな一緒にトレーニングに励んだ。それぞれの活動場所が全国に散らばる中、コロナ禍となるまで「お互いの状況を把握して繋がっていこうという意識はなかなか感じられなかったこと。絆が深まり、いい気づきを得ることができました」と、小宮選手は振り返る。

 2021ジャパンパラゴールボール競技大会ではチームや選手個々の現状と課題を把握すると同時に、ゴールボールの肝となる「音」を久しぶりに試合の中で確認することができた。視界が全て遮断された選手がプレー中、主に頼りにできるのは「音」だ。ボールの中に入った鈴の音で速度、方向、強度などを察知し、相手選手の足音や息づかいなどで動きを知る。

「会場の雰囲気や広さによっても音の響きは変わってきます。床もそれぞれ違うので、瞬時の対応力や修正力が求められる。それを大会ならではの空気感の中で確認させていただいたことは、大きなプラスになりました」(浦田選手)

 コート上に立つ3人の選手は音から得た情報をもとに、それぞれ頭の中に現状のイメージ図を描く。「相手のゴールが見えていますし、相手の足音などで画像が動く感じですね」と浦田選手。3人のイメージを一致させる作業もまた、勝敗を大きく左右する要因となるが、そこで大事になるのがベンチの声だ。

「投げたボールがどこに行ったとか、相手のどこに当たったとか、自分たちでもサーチ(声掛け)して確認していますが、やはり見えていない分、どのくらい正確なのかは分からない。なので、ベンチが声掛けしていい時間帯(タイムアウト時など)に、ベンチからの声を頼りにイメージを修正して正確性を出していきます。コートの中の3人だけじゃなくて、ベンチの力も大きいと思います」(小宮選手)

「見えないことが言い訳にならない。自分の可能性にチャレンジできる」

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 攻撃側はボールを投げない選手も足音を出したり手を叩いたり、フェイクを仕掛けてボールの音を聞かせないよう相手を惑わす。「こっそりと味方の手助けをしながら、相手の守りをずらすのが1つのポイントですね」と欠端選手。同時に、攻撃側のフェイクに惑わされない守備側のスキルも必要だという。

 守備をする時は相手ゴールの幅を1メートルずつ9分割し、位置情報として向かって左から順番に0~9と番号を振る。相手がゴール右端からボールを投げてくると思ったら「右9!」と声に出し、チーム内で情報を共有するのだが、時には3人のイメージが一致しないことも。浦田選手は「3人が一致することもあれば、1人だけずれることもあるし、3人全員がずらされてしまうこともあるんです(笑)。選手たちの出す声や会話にも注目していただけると面白いかもしれません」と観戦のポイントを教えてくれた。

 音が勝負のカギを握るだけに、会場ではプレーが始まる時、観客に向かって「Quiet Please(お静かに願います)」と合図される。だが、ゴールが決まった瞬間やタイムアウト、選手交代時などプレーが止まっている時は音楽が流れ、大きな声援が許される。「ゴールボールは、実は客席を含めた戦い。場作りを一緒にやっている感覚で応援していただけるといいと思います」と浦田選手。会場にいる全ての人が試合に参加している。そんな感覚を味わえることもまた、魅力の1つと言えそうだ。

 アイシェードで完全に視界を遮るため、誰もが同じ条件でプレーできるゴールボール。弱視のため、物を目で追うことが難しく、以前はスポーツが苦手だったという欠端選手は「自分も同じ条件でできる。人生を変えてくれた競技でもあるので続けています」と笑顔を見せる。「見えないことが言い訳にならない。自分の可能性にチャレンジできる楽しさを感じ、自分と正面から向き合うきっかけを与えてくれた競技です」と話すのは浦田選手。小宮選手も「チーム力やコミュニケーション能力がとても大事。いろいろな人たちの力が合わさった時に勝利をつかみ取ることができる。どんどん出てくる課題をクリアするのが楽しいし、難しい。そこが魅力です」と力を込めた。

ゴールボールが持つ教育的視点「魅力満載の競技、すごくいい教材になる」

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 誰もが同じ条件で参加できるからこそ、1人でも多くの人がゴールボールを体験できるチャンスが少しでも増えればと3選手は願う。その想いを後押しするべく、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金で東京・江戸川区スポーツセンターにゴールボール用ゴールが設置されるなど、競技の普及や発展のためのスポーツ環境整備が進められている。小宮選手は「スポーツが発展していくためにも、スポーツくじの助成金が力になってくれていることに心から感謝しています。その中で私たちもスポーツの力で皆さんに元気や勇気を与えられるように、もっと精進していきたいと思います」と決意を新たにした。

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 現在は新型コロナウイルス感染症の影響により体験会が開催しづらい状況ではあるが、3選手はゴールボールを学校教育に取り入れることを提案する。小宮選手は自身の体験をもとに「普通校でパラスポーツに出会うことは少ない」と話し、その上でコミュニケーション能力の必要性などゴールボールが持つ特徴が広く社会に応用されると指摘。浦田選手も言葉を続ける。

「ゴールボールは魅力満載の競技ですし、すごくいい教材になると思います。見えないという状態で身体を動かすこと自体、視覚障がいのない方はあまり体験しないことですが、体験するからこそ生まれる可能性に気づけたり、見えない分コミュニケーションが活発になることで思いやりの心を育むことに繋がったり。普段は1.25キロあるバスケットボールに似たボールを使いますが、軽くて柔らかい素材のボールを使ったり、いろいろアレンジができるスポーツでもあるので、ゴールボールを教育に取り入れると、未来に向けていろいろな可能性を生み出せると思います」

 多様性という価値観が注目される現代の社会において、ゴールボールはパラリンピック競技としてだけではなく、教育的な視点からもその可能性に大きな期待が集まりそうだ。

(リモートでの取材を実施)

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小宮 正江こみや まさえ

1975年5月8日、福岡県生まれ。ポジションはウィング。小学2年生の時、網膜色素変性症を発症。九州産業大学卒業後、一般企業に就職するが、視力低下が進んで退職する。2001年からゴールボールをはじめ、同年の日本選手権で初出場にして初優勝。パラリンピックは2004年アテネ大会に初出場し、銅メダルを獲得すると、以降4大会連続出場。2012年ロンドン大会では金メダル獲得の立て役者となった。競技歴20年を数えるベテランで、日本ゴールボール界の第一人者でもある。

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浦田 理恵うらた りえ

1977年7月1日、熊本県生まれ。ポジションはセンター。20歳の時、大学在学中に網膜色素変性症を発症し、両眼の視力を失う。鍼灸マッサージの免許取得で入所した視力センターでゴールボールと出会う。2006年のIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)世界選手権大会で国際大会デビューを果たすと、2008年北京大会でパラリンピック初出場。2012年ロンドン大会では金メダルを獲得し、2016年リオデジャネイロ大会でも5位に入賞した。

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欠端 瑛子かけはた えいこ

1993年2月19日、神奈川県生まれ。ポジションはレフト。先天性白皮症による弱視を持ち、子どもの頃はスポーツが嫌いだったという。高校2年生の時に友人に誘われてゴールボールを始めた。パラリンピックは、横浜美術大学に在学中の2012年にロンドン大会に出場し、回転投げから繰り出される迫力あるボールで金メダル獲得に貢献。2016年のリオデジャネイロ大会にも主力選手として出場した。実父は元横浜ベイスターズの投手・欠端光則氏。

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