私たちの街のGROWING

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私たちの街のGROWING

加西市 地域資源である“溜め池”を使ったユニークなトライアスロン大会

 2019年9月29日、兵庫県加西市で「第9回グリーンパークトライアスロン in 加西」が開催されました。トライアスロンといえば、スイム・バイク・ランの3種目を連続して行う過酷な競技であり、東京オリンピック・パラリンピックの正式競技となっています。個人(男子/女子)に加えて、オリンピックでは初めて男女混合リレーが行われることでも注目を集めており、新潟県佐渡市や長崎県五島列島をはじめ、国内でも数多くの大会が開かれています。一方で、兵庫県加西市は海に隣接しておらず、湖もありません。スイムの舞台となるのは、国内でも珍しい“溜め池”です。なぜ、農業用水の溜め池を使ったトライアスロンを開催するに至ったのでしょうか? そして、大会に込められた地域やスポーツへの想いとは? 加西市役所ふるさと創造部 文化・観光・スポーツ課の高見昭紀課長にお話を伺いました。

市内に900ある溜め池を活かして、街の魅力を全国へ届ける

 兵庫県南部、播州平野のほぼ中央に位置する加西市。市の中心部を流れる万願寺川の東側には広大な青野ケ原台地、西側には鶉野(うずらの)台地が広がる、豊かな自然に恵まれた街。そんな加西市で最初の「グリーンパークトライアスロン in 加西」が開催されたのは2011年のこと。開催のきっかけは、“溜め池の利活用”だったと高見さんは振り返ります。

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加西市役所ふるさと創造部 文化・観光・スポーツ課の高見昭紀さん

「加西市は内陸部で海がなく、大きな河川もありませんが、溜め池はたくさんあります。その数900。これは県内でも珍しい大きな特徴です。農業用水に利用している溜め池という地域資源を活用し、加西市の魅力を広く発信できないか。そう考えたとき、多くの人が集まるスポーツイベントの開催が企画され、トライアスロンが候補に挙がりました。周辺にはのどかな田園風景が広がり、ランとバイクに適したなだらかな地形という自然環境も後押しになりました」

 トライアスロンの大会を通じて加西市の魅力を発信する――。その主旨の下に開催は決定したものの、スイム・バイク・ランの3種目を同時に行う競技だけに、開催までの道のりは決して平坦なものではありませんでした。

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「最初の課題は溜め池の水質でした。農業用水ということもあり、衛生面を心配される参加者が多くいらっしゃいました。水質検査を行って異常がないことを確認し、開催前には毎年、水草を除去しています。手作業で行っているのでかなりの重労働ですが、ボランティアの方々に協力していただいています。
 競技運営は兵庫県トライアスロン協会の協力を全面的に仰ぎましたが、コースづくりは市役所側で行っています。コースは全長51.5kmにも及び、通行止めの区域もあるので、地域住民の理解が不可欠だからです。区長を訪問して協力を仰ぎ、住民の方々に説明に伺うなど、開催までの調整は苦労の連続でした。ですが、回を重ねるごとに住民の方々の理解が得られ、今では『大会を盛り上げるためにはどうしたらいいですか?』という嬉しい問い合わせもあるんですよ」

参加者との交流を通して、市民の“おもてなしの心”を育む

 トライアスロンの大会では、前日に選手受付や競技説明を行うのが一般的。一方、「グリーンパークトライアスロン in 加西」では、前日祭としてイベントを催しています。

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「今年はトライアスロン競技者でもある毎日放送の山中真アナウンサーと、オリンピアンの西内洋行さんにトークショーを行っていただきました。参加者に少しでも楽しんで帰ってほしいという想いからです。加えて、市民ボランティアの方々が郷土料理を振る舞います。加西市の魅力を感じてもらうと同時に、参加者との交流を通して、市民に“おもてなしの心”を育んでほしいという意図もあります。
 市民ボランティアの参加人数は年々増加し、給水をはじめとする運営面も含め、今年は約60人に参加していただきました。それ以外にも、大会を盛り上げるために地元の吹奏楽団や播州加西あばれ太鼓の皆さんなど、多くの方に協力していただいています。間違いなく、市民ボランティアの協力なしに開催は実現できませんでした」

 市民ボランティアの皆さんによる温かい歓迎もあって、大会の参加者数は年々増加。第1回大会のエントリー137名に対し、今年は362名の申込がありました。

「初心者の方でも参加しやすいコースづくりはもちろん、アットホームな雰囲気やおもてなしに対する評価の声をいただいています。『今年で3年連続きています』『また来年も参加します!』というリピーターの方も多く、本当にありがたい限りです。開催までには大変なこともありましたが、今年もこうして無事に本番を迎えられて胸をなでおろしています」

年齢や性別を問わず、誰もが楽しめる開かれた大会に

 いよいよ迎えた大会当日。晴れ渡った空の下、参加者が続々と溜め池に集合します。トライアスロンの個人が3組、リレーが1組、パラトライアスロンの個人が1組に分かれ、スタートの号砲に向けて準備を整えます。

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 トライアスロンの場合、1周0.75kmの溜め池を2周するスイムからスタート。吹奏楽団による高らかな演奏が終わると、スタートの合図と同時に参加者たちが一斉に水しぶきをあげ溜め池に飛び込みます。スイムが終わると陸に上がり、水滴を拭う間もなくバイクへ。溜め池のあるスタート地点から5km先の折り返し地点を目指し、懸命にペダルを漕ぎます。この10kmを4往復した後は、バイクを置いてランへ。2つの溜め池の外周2.5kmを4周すると、全長51.5kmの過酷な道のりのフィニッシュです。

「参加者の年齢は19歳から79歳まで、男女問わず、幅広い年齢の方々に参加していただいています。初心者の方でも楽しめるよう、コースも毎回のように改良しています。例えば、昨年はランのコース上にゴールゲートがあったのですが、今年は観客が集まりやすい場所に移しました。参加者にとってゴールは一番目立つシーンですから、観客が多い方が達成感や喜びを感じられるからです」

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 個人の部で1位のゴールテープを切った石橋健志さんも、「参加するのは2018年に続いて二度目ですが、ゴールの位置が変わり、観客が増えたことで華やかさが増しました。ほかのトライアスロン大会と比べても、『グリーンパークトライアスロン in 加西』はスピードが出しやすいコースなので、とても気持ちよく走ることができました。2020年は連覇を目指します!」と語ってくれました。

障がい者スポーツ振興として、パラトライアスロンを正式競技に

 パラトライアスロンの場合、スイムは1周0.75km、バイクは20km、ランは5kmの計25.75kmで競い合います。スイムで陸に上がる際の手助けや伴走などを担うハンドラーと力を合わせ、懸命に前に進む参加者に声援が飛びます。パラトライアスロンは昨年の大会で公開競技として行い、今年は正式競技に。これは大きな進化だと高見さんは言います。

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「兵庫県トライアスロン協会から打診があり、障がい者スポーツ振興としてパラトライアスロンを実施しました。東京パラリンピックに向けて障がい者スポーツの認知を向上させ、普及への意識を醸成できたことはとても意義深いことです。『グリーンパークトライアスロン in 加西』にとっても、大きなターニングポイントになったと思います」

 パラトライアスロンで1位に輝いたのは、JTU(公益社団法人日本トライアスロン連合)パラトライアスロン育成強化指定選手である梶 鉄輝(かじ てつき)さん。「国際大会に向けた調整レースとして初めて参加しましたが、溜め池の水がきれいで、コースも走りやすく、最後まで追い込むことができました。コースがコンパクトに収まっているので、とても動きやすかったです」と大会を振り返ってくれました。

 パラトライアスロンを正式競技とするにあたって、バリアフリー対応はもちろん、コースの工夫も行ったと高見さんは言います。

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「パラトライアスロンの参加者が走りやすいように、坂をのぼるコースをフラットのコースに変更しました。溜め池での入水・退水は一般の参加者でも大変なので、ハンドラーの方に協力していただきました。
 ハンドラーには、兵庫県立北条高等学校の生徒にボランティアとして参加してもらいました。北条高校は、ボランティア精神の育成に積極的に取り組んでいる地元の高校です。私たちとしても、高校生に障がい者スポーツに携わってほしいという想いがあり、『ハンドラーをやってみませんか?』と声をかけています」

 実際にボランティアに参加した生徒に話を聞いてみると、「トライアスロンの大会に参加するのも、障がいを持つ方と接するのも初めてでしたが、運営の方が手取り足取り教えてくださいました。参加者の方とも色々なお話しができて、とても楽しかったです。なにより『ありがとう』と言われたことが一番うれしかったです」と話してくださいました。

観光・スポーツ・おもてなし・教育・文化が一体となった大会

 溜め池という地域資源を活用し、加西市の魅力を発信するという目的で始まった「グリーンパークトライアスロン in 加西」。こうして大会を観戦すると、観光を起点にスポーツ振興、市民ボランティアの“おもてなしの心”の醸成、地元の高校生たちのボランティア精神の育成と、さまざまな側面が見えてきます。

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鶉野飛行場に浮かぶ気球の様子

「加えて、文化という側面もあります。競技中、溜め池の上空に気球を飛ばしていますが、あれはスイムの参加者の目印になるだけでなく、“気球の飛ぶまち加西”というまちづくりの一環でもあります。加西市には太平洋戦争時に使われていた鶉野飛行場が当時の姿をとどめています。そうした負の遺産を平和学習に活用しようと、気球を上げる環境として提供しているのです」

 観光・スポーツ・おもてなし・教育、そして文化という5つの要素が一体となり、地域を活性化させている「グリーンパークトライアスロン in 加西」。大会を成功させるために工夫を重ねている高見さんは、節目となる第10回大会をすでに見据えています。

「来年は東京2020オリンピック・パラリンピックが行われるスポーツのゴールデンイヤー。日本中が、世界中がスポーツに熱狂します。そんな中で第10回大会を迎える『グリーンパークトライアスロン in 加西』にも、より多くの参加者が日本全国から集うことを目標に準備を進めています。

 今回の大会の運営にあたってはスポーツくじ(toto・BIG)の助成を受け、大会の開催に向けた準備や会場の設営に役立てました。大会の質を上げることで、県内外からの参加者に満足いただける内容とすることができました。今後も参加者がさらに増え、市民や参加者が溜め池を価値ある資源として認識し、よりいっそうスポーツを通じた地域活性化が図れるように励んでいます」

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 溜め池をトライアスロンに使うというユニークな発想から始まった「グリーンパークトライアスロン in 加西」。そこに街の魅力とスポーツの楽しさを伝えること、おもてなしの心とボランティア精神を育むこと、街の文化を広めることが重なり合い、意義深い大会へと発展を遂げました。同時に、参加者の弾ける笑顔や市民ボランティアの一生懸命な姿、温かい声援を送る沿道の人々を見ると、これからも多くの人に愛される大会になることは間違いありません。

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Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
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