私たちの街のGROWING

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私たちの街のGROWING

渋川市伊香保町 自然の魅力を発信する“温泉街”のトレイルラン大会

 日本有数の温泉街として知られる群馬県渋川市の伊香保温泉。その歴史は古く、江戸時代には多くの武士や町人、農民が湯治(とうじ)に訪れ、明治以降は夏目漱石や徳富蘆花(とくとみろか)といった文人たちにも愛されました。そんな言わずと知れた名湯で、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金を活用して、2017年から「渋川伊香保温泉トレイルラン」が開催されています。近年、マラソンや登山のブームを背景に競技人口が増加しているトレイルランニング(トレラン)ですが、ゆったりとお湯に浸かる温泉とはイメージが結びつきにくいもの。なぜ、由緒ある温泉街でトレランの大会が開催されるに至ったのでしょうか。渋川市役所 スポーツ健康部の藤井隆さんに、開催の経緯やスポーツを通じた地域活性化についてお伺いしました。

温泉だけではなく、自然の魅力も伝えていきたい

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 トレイルランニングの「トレイル」とは「舗装されていない道」のこと。自然の中を走るアウトドアスポーツの一種です。ときにはゴツゴツとした岩場やぬかるんだ道を走ることもありますが、美しい自然の中を風を感じながら駆け抜ける爽快感や、当日の天候に合わせて装備を工夫したりしながらゴールする達成感は、他ではなかなか味わえない体験。魅力が広まり、日本全国で大小さまざまな大会やイベントが催されるようになっています。

 そんなトレランを、日本屈指の温泉街で――。その意外な組み合わせには、伊香保という街の特徴が関係していると藤井さんは言います。

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渋川市役所 スポーツ健康部の藤井隆さん

「伊香保温泉は榛名(はるな)山の中腹、標高約700mに位置しています。また伊香保森林公園は東西約2.9km、南北約1.9kmに及ぶ自然豊かな公園で、四季折々の風景を楽しむことができます。伝統的な温泉街としての魅力はもちろん、伊香保の自然の美しさを多くの人に知ってもらうために何かできないか。そう考えたとき、ありのままの自然の中を走るトレランは最適な競技でした。トレランを通して伊香保の魅力を全国に発信するという目的の下、『渋川伊香保温泉トレイルラン』の開催に至りました」

安全に楽しんでもらうことが大会の至上命題

 開催にあたっては、市長や渋川市のスポーツ協会など関係する機関を中心に実行委員会を組織。さらに運営委員会として、藤井さんをはじめとする市の職員や陸上の専門家、前橋トレラン部などが参加しました。
 前橋トレラン部とは、群馬県内を中心にトレランの活動を行う市民サークル。部長である栗原孝浩さんは数々の大会で優勝経験を誇るトレイルランナーであり、さまざまな大会のディレクターも務めています。

「栗原さんは渋川市もコースに含まれる『群馬県100キロメートル駅伝』に携わっている関係でご縁があり、ゲストランナー兼レースアドバイザーとして協力を仰ぎました。渋川市にとってトレラン大会は初めてづくしの試みでしたので、ルールづくりや種目・コース選定など、さまざまな面で栗原さんの知見をお借りしました」

 コースは栗原さんが日頃からトレーニングに使っているルートをもとに作成。大会前には、藤井さんたち関係者で二度ほど試走しました。

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「20人ほどのメンバーで16kmのコースを試走したのですが、登って下っての繰り返しで非常にハードでした。さらに、大会前に実施した試走会では、参加者が山中で蜂の大群に襲われて…。自然の中ですから、いつ何が起きるかわからない。なんて過酷な競技だろうと身をもって実感しました。未舗装の道を走るトレランは危険な場面もあります。安全面への配慮は欠かせません。地元の消防署にもご協力いただき、救護班や医師を配置したり、コース上の危険区間には3人1組のパトロール隊を配置したり、不測の事態が起きたらすぐに連携をとれる体制を作りました。参加者の皆さんに安全に楽しんでもらうことは、主催者側の至上命題でした」

初めての方にもトレランの楽しさを感じてほしい

 大会のコースは16km、8.5km、クロスカントリー5km、親子クロカン3kmの4種目。16kmコースは渋川市総合公園をスタート地点とし、伊香保森林公園を8の字にめぐる道のりで最高地点の標高は1,227mもあります。コースには、伊香保温泉の有名な石段をはじめ、紅葉の絶景が楽しめるスポットや、冷気が出る不思議な風穴など、伊香保の魅力を感じられるスポットが散りばめられています。

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「120kmなどの長距離を走る他のトレイルラン大会と比べると、16kmは短い方です。コースが短いこともあり、参加者は大会に初めて出場される方が大半。この大会がトレランの魅力を体感していただくきっかけになればと思っています。親子クロカンを採用したのも、より幅広い層の方々に気軽に参加いただき、伊香保の魅力を知ってもらいたいという想いからです」

大会のために整備されたコースが、地元民のハイキングコースに

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 大会の開催や、大会のコースの一部になっている渋川市総合公園クロスカントリーコースの整備には、スポーツくじ(toto・BIG)の助成金が活用されています。助成金によって大会が充実するとともに、生まれ変わったコースは地域の垣根を越え、大会後も幅広い人々に愛用されています。

「助成によってクロスカントリーの走路がウッドチップで舗装され、身体への負担が少なくなりました。また、今回の整備にあわせて、参加者が迷わないように、コース上に順路や距離看板も市独自で設置しました。整備のおかげで、コースは大会の時のみならず、日常的に多くの方に利用されています。
クッション性のあるウッドチップ舗装と起伏のあるクロスカントリーのコースは、とりわけアスリートに好評。良いコースがあると口コミで広がり、地元の実業団以外にも、新潟の高校生や東京の大学生など、幅広い人が練習に訪れています。一方で、四季によって様々な表情が楽しめるトレランのコースは、地元のハイキングコースとしても親しまれています」

地元にも、全国にも、愛される大会を目指して

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 何にも増して安全面が重要なトレラン大会。悪天候に見舞われた2017年、2019年は参加者の安全に配慮して中止となりましたが、初の開催となった2018年の大会は思い出深いものだったと藤井さんは振り返ります。

「準備で最も苦労したのは、地元の方々の理解を得ることです。コースには石段をはじめとする温泉街が含まれており、開催時間はちょうど旅館やホテルのチェックアウトにあたります。旅館・ホテル関係者の皆様に迷惑がかからないよう、大会の主旨などをご説明にあがりました。2017年の段階では、初めての開催なこともありご理解いただくのが大変でしたが、翌年にはスムーズに進めることができました。中には、『旅館のホームページで告知しますよ』と言ってくださる方もおり、大会が認知されつつある手応えを感じました。日本各地から集まった参加者が大会の後に伊香保温泉に泊まられることも、増えてきています。そういった地域への経済効果も、大会が受け入れられてきた一因かもしれません」

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 2018年の大会は盛況に終わり、開催後は嬉しい反響もあったと顔をほころばせます。
「当日はやはり、安全面が一番の気がかり。できる限りの準備をしたとはいえ、大会中は気が抜けませんでした。大きな事故が起こらずに終了したときは、安堵の気持ちでいっぱいでしたね。『会場の雰囲気が良かった』『ボランティアの方に温かい声をかけてもらった』と参加者の方におっしゃっていただけてとても嬉しかったです。安全面へのハードルが高いとはいえ、伊香保の豊かな自然を知ってもらうには、トレランという競技はベストでした」と言います。
 2019年の大会は申込者749人のうち、渋川市民が58人。大会を続けることで、地域の方の関心も高まってきています。

 大会が開催される例年10月の下旬には、コース上のオンマ谷の木々が鮮やかに色づき、息を呑むほど美しい紅葉が見られるそう。トレランに参加された方には「伊香保にこんなに美しいところがあったんだね」とお声がけいただいたそうです。自然の魅力を伝えるために、自然を体感するスポーツを――。そんな想いからスタートした「渋川伊香保温泉トレイルラン」が教えてくれたのは、スポーツを通して見えてくる伊香保温泉の新しい魅力でした。

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Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

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