私たちの街のGROWING
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知的障がいがある人のためのスポーツ活動、スペシャルオリンピックス
世界中で、知的障がいがある人のためのスポーツ活動を展開している「スペシャルオリンピックス」をご存じでしょうか。 IOC(国際オリンピック委員会)とも協定を交わしているスペシャルオリンピックスの活動は多岐にわたり、日本では全47都道府県で、世界では170カ国以上でプログラムを行い、4年に一度、夏季・冬季のナショナルゲーム(全国大会)も開催されています。 今回は、日本女子マラソン界のパイオニアとして活躍後、2008年から公益財団法人スペシャルオリンピックス日本理事長を務める有森裕子さんと、経営企画部部長の宍戸咲季子さん、そして経営企画部事務局員の市川聖也さんに、活動にかける想いを伺いました。
約170か国以上が参加する国際的スポーツ組織
公益財団法人スペシャルオリンピックス日本 理事長 有森裕子さん
有森「スペシャルオリンピックスとは、知的障がいのある人たちに日常的なスポーツプログラムと、その成果を発表する大会を提供することで、スポーツの機会をつくり社会参加を応援する国際的な組織です。
元々はアメリカの故ケネディ大統領の妹"ユニス・ケネディ・シュライバー"からはじまりました。彼女のご家族に知的障がいのある方がいて、知的障がいのある人を集めてスポーツを楽しむデイキャンプを行ったんです。それが大きくなって全米に広まり、スペシャルオリンピックスという形になり、全世界に広がっていきました。
日本では1994年にはじまりました。今では全都道府県に地区組織があり、各地で日常的にスポーツプログラムを実施しています。またオリンピックと同じように4年に1度、夏と冬に世界大会があり、世界大会への選考を含めて世界大会の前年にナショナルゲームを開催しています。ナショナルゲーム(全国大会)の日には、全国からアスリートが集まり陸上競技やサッカー、スキーやスケートなどの競技に臨みます。この大会を経て、世界大会に参加することもでき、会場は熱気と歓声に包まれるんです。」
スペシャルオリンピックスの特徴は、アスリートたちが自身の可能性を最大限に発揮できること。一人ひとりが自分らしく競技できるように、独自のルールが導入されています。その一つが『ディビジョニング』です。
有森「ディビジョニングとは、年齢・性別・競技能力などで行う組み分けのことです。どの競技も競技能力が同程度のアスリート同士が平等に競い合うことになり、自分の能力を思う存分発揮できるようになります。また参加したアスリート全員が表彰され、1位から3位にはメダルを、4位から6位、そして失格になった人も表彰台に上がって参加賞がもらえる点も特徴的です。頑張った本人にやりがいや喜びをちゃんと感じてもらえる、そういった機会をつくるための大会です。」
知的障がいのある人だけが楽しめる大会ではなく、ともにスポーツを楽しめる大会。そこがスペシャルオリンピックスの醍醐味でもあり、多くの方に賛同される理由でもあります。
宍戸「知的障がいのある人とない人がパートナーとなり競技を行う『ユニファイドスポーツ』も独自の取り組みです。例えばチームを組んでバスケットボールやサッカーを一緒に楽しんだり、ゴルフでは一打ずつ交互に打ったり、ペアでボウリングの総合点数を競いあったりします。同じ目標に向かって頑張る中で、お互いの個性への理解が自然に深まっていくんです。」
知的障がいのある人を取り巻く社会を、スポーツを通して変えていきたい
スペシャルオリンピックスが現在特に推進しているのが、このユニファイドスポーツです。そこには熱い想いがありました。
有森「知的障がいがある人たちに対して、まだまだ固定観念があると感じています。知的障がいがある人たちからの発信があまりないがゆえに、思い込みや先入観で、彼らの環境や人間性を考えてしまっているところがある。
たぶん一番の問題は、彼らにある障がいではなくて、そういう固定観念を持って変化をしていかない社会にあると思うんです。ここが変わらないと、スペシャルオリンピックスのアスリートたちや障がいのある人の環境は変わらないんですよね。そんな社会を変えるために、みなさんにまず知ってもらう、関心をもってもらうために、馴染み深いスポーツを用いて私たちは活動を行なっているんです。スポーツを通して社会に変化を育む。それがスペシャルオリンピックスの社会的意義かと思います。」
2002年から活動に携わっている有森さん。彼女を大きく突き動かしたのは、前々理事長のある一言だったと言います。
有森「スペシャルオリンピックスのことを初めて知ったのは、前々理事長であった細川佳代子さんからでした。東京でナショナルゲーム(全国大会)が行われる時に、ドリームサポーター(アスリートたちの夢の実現を、ボランティアとしてサポートする著名人)として手伝わないかというご相談があり、そこで初めて知りました。
私自身スポーツを通して様々なボランティアに参加したことがあり、自分の経験が活かせればと思っていたこともあり、細川さんから活動のことを教えてもらいました。その中で、細川さんのある言葉にとても驚いたんです。
それは細川さんが説明の最後におっしゃった言葉です。スペシャルオリンピックスの活動は、知的障がいがある人たちに『スポーツの場を提供しているのよ』とおっしゃったんです。私は思わず『えっ?』と驚きました。『知的障がいがある人は、組織が提供しない限りスポーツをやらせてもらえないの?』とかなりの衝撃だったんです。
私自身スポーツに出会って、スポーツを体験することで、多くのことを育むことができました。スポーツは、人間の可能性を引き出してくれる手段だと思っているんです。
そしてそれは私だけではなく、全員にあてはまると思っています。だから学校の授業で、体育があり運動会があり競技会がありますよね。
それほどスポーツが当たり前に大事なものだと思っていたので、知的障がいがある人たちは、自由にスポーツを楽しむ機会がないということにびっくりました。でも彼らは知的障がいがあって本人から発信が難しいというだけで、その能力があろうがなかろうが、周りができないんじゃないかという判断のもとでスポーツの場を削がれている。
私自身スポーツを通して変化した人間だったからこそ、スポーツがもたらす変化を応援していきたいと思ったんです。そうして活動に関わり始め、2008年からは理事長になりました。」
大会に参加することで、日常や人生にも変化が生まれる
有森「大会に出るとアスリートはみんなから声援を受けます。スポーツをやることで応援されたり喜んでもらえたりできる。応援されることで生きている実感を得られるという意味で、大会は貴重な機会です。自分の存在をアピールしていける場なので、表情や感情が非常に豊かになるアスリートが多いですね。
身体的な面で言えばチャレンジをしますから体力もついていきますし、スポーツを通して仲間とのコミュニケーションも取れていくようになるので日常が進化していく。
障がいの度合いにより異なりますが、自閉症の子たちがだんだん自分の言葉を発するようになったり、身の回りのことができるようになったり、アルバイトだった方が正社員になれたり……そういう変化は多くの場所で起きていますね。一生を変える大きな変化につながっています。
変化するのはアスリート達だけではありません。家族や参加した地元の方やボランティアの方など、周りの人達に驚きと気づきを生む、これが「スペシャル」な点だと思います。最初はどうしていいかわからず、どこか構えがちなところがあった地域の方やボランティアの方も、アスリートと接しているうちに、どんどん壁がなくなって、積極的にコミュニケーションをとるようになるんです。人に対してより優しくなったり、自分自身が元気になっていくといった変化も起こります。」
大会を支えるのは、最大6,000人のボランティアたち
自治体や地元の企業、学生や住民の方々が一丸となって協力しあう大会は、最大6,000人ものボランティアが集まり、大会の準備や運営が大変です。
市川「大きな大会というのは日頃頑張っているアスリートたちのモチベーションでもありますし、できるだけ多くの人を巻き込んだ大会にしていきたいと思う一方で、ボランティアの募集や資金集めなど大変なこともあります。
多くの企業や個人にも協賛いただいておりますが、全国規模の大会を開催するにあたって、スポーツくじ(toto・BIG)の助成金も活用しています。2年ごとに定期的に大規模な大会を行うためには、施設を確保するための費用などを賄う必要があり、安定した資金が必要です。大会参加を楽しみにしているアスリートのためにも、助成金は欠かせないものとなっています。」
宍戸「最近では若い世代のボランティアも増え、(大会に対する)関心も高まっています。2020年2月に予定していた『第7回スペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲーム・北海道』は、新型コロナウイルス感染症の影響により残念ながら中止となりましたが、近隣の小学校に出前授業を行って、活動について知ってもらったり、事前に活動内容を調べてポスターを作ってもらったり、実際に応援に参加する取り組みを札幌市と協力して行いました。最近では教育の現場につなげたいという自治体の方からの声もよく聞くようになってきています。大会自体は中止となってしまいましたが、大会の準備期間で、みんなの心の中に残せたものがあったのではないかと感じています。」
障がいのある人もない人も、みんなで支え合える社会へ
最後に、スペシャルオリンピックス活動のこれからについて伺いました。」
有森「私たちは、スポーツを通して、知的障がいのある人が社会で当たり前に生きていけることを応援している組織です。だから、できる限り多くのアスリートたちに、そういう機会の場を継続して提供していきたい。『スペシャルオリンピックス』の名称が複数形で表されているのは、大会に限らず、日常的なスポーツトレーニングから世界大会まで、様々な活動が年間を通じて、いつでもどこでもおこなわれていることを意味しています。特にコロナ禍のいまでも、スポーツに継続して参加できる機会をつくっていくことが重要ですので、新しい活動のかたちについて考えていかなくてはと思っています。」
宍戸「今私たちは、ユニファイドスポーツという知的障がいのある人とない人が一緒に競技を行う形を推進しています。それを競技の時だけではなく、大会中の受付をする時間やお弁当配りをする時間など、日常の中でも増やしていければと思います。知的障がいのある人とない人、お互いの気づきとなるような、そういった場に大会がなっていければと思っています。」
市川「世の中はまだ、知的障がいのある人を社会みんなで支えていこうという状況にはなく、どうしてもご家族やご親族、ご本人の負担が多いと状況だと思います。もっとスペシャルオリンピックスの活動を広めていって、知的障がいのある方への理解を深めていけば、みんなで支えあうという社会に近づくと思いますので、ユニファイドスポーツや他の活動を通してそういう社会に貢献していければと思っています。」
オリンピックは元来、スポーツを通じて心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々なちがいを超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解しあうことで、平和でより良い世界の実現に貢献する「平和の祭典」が原点と言われています。スポーツを通じて平等を目指し、お互いの理解が深まる「スペシャルオリンピックス」こそ、その名前にふさわしい活動ときっとなるはずです。
写真提供:スペシャルオリンピックス日本
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