インタビュー

int_501.jpg

インタビュー

「競技をもっとメジャーに」 近代五種の知られざる魅力とは

ヨーロッパでは“キング・オブ・スポーツ”と呼ばれる歴史ある競技

 近代五種という競技をご存知だろうか。近代オリンピックの父と呼ばれるクーベルタン男爵が、古代オリンピックの五種競技(レスリング・円盤投・やり投・走幅跳・短距離走)に倣って考案し、1912年ストックホルムオリンピックから続く歴史ある競技だ。フェンシング、水泳、馬術、レーザーラン(射撃、ランニング)の5種目トータルでの成績を1日で競い合う。ヨーロッパでは根強い人気を誇り、“キング・オブ・スポーツ”とも、“スポーツの華”とも呼ばれる。

 一方で日本での認知度はいまだ発展途上で、競技人口も少ない。たとえば2018年の全日本選手権の出場者は男女合わせて46人(男子29人、女子17人)。まだまだ馴染みの薄い競技だが、今、密かな注目を集めている選手がいる。近代五種とフェンシングの2競技でオリンピック出場を目指す22歳の新星・才藤歩夢選手だ。彼女が思う近代五種の魅力、そして競技のもつ、知られざる面白さに迫った。

 競技は過酷だ。フェンシングに始まり、水泳、馬術、レーザーラン(射撃、ランニング)の5種目を、わずかなインターバルを挟んでたった1日でこなす。長時間を戦い抜く、体力、持久力はもちろん、精神力、集中力、時には運も必要とされる。これが“キング・オブ・スポーツ”と言われる所以だ。才藤選手は競技のもつ魅力について、こう語った。

「選手は、それぞれ得意不得意種目があるので、順位の入れ替わりが激しいところですね。選手側も得意種目で挽回出来たら嬉しいですし、観ている側にとっても順位の入れ替わりが面白いと思います。5種目あるので、練習でも飽きずにできますね」

 個々の競技についてはよく知られるところだが、5種目をトータルで競うとは一体どういうことなのだろうか――。それぞれの種目と得点について簡単にルールを紹介していく。

<フェンシング(エペ)>

int_50_1

 全身すべてが有効面となる「エペ」による1分間1本勝負で総当たり戦を行う。勝率70%を250点とし、得点が増減する。

<水泳(200メートル自由形)>

int_50_2

 200メートルを泳ぎ切る速さを競う。水泳で必要とされるのはパワーと持久力。男女共に2分30秒を250点とし、0.5秒につき1点(1秒につき2点)ずつ得点が増減する。

<馬術(障害飛越)>

int_50_3

 大会当日に抽選によって貸与される馬を操り、競技アリーナ内に設置された様々な障害物を飛越し、制限時間内にコースを走る。この種目のみ、得点は300点満点からの減点方式で計算される。

<レーザーラン(射撃5的+800メートル走を4回)>

int_50_4

 これまでの3種目の得点を1点=1秒とタイム換算し、時間差を設けて上位の選手からスタートする。射撃とランニングを交互に4回行う。射撃はレーザーピストルを使い、10メートル先の直径約6センチメートルの的に5回命中させる。5回命中するまでは50秒の制限時間の間、撃ち続けなければならない。

 このレーザーランでゴールした着順が最終順位となる。

近代五種とフェンシングの両方でトップを目指す

 なぜ、才藤選手はこのハードな競技を始めたのだろうか。それは、1988年のソウルオリンピックに選手として出場し、2012年のロンドンオリンピックでは日本代表の監督を務めた父・浩さんの影響だった。

「始めたのは小学4年生で、父の勧めですね。まずはやってみないかと言われました。走る泳ぐ、あと馬術もなんとなく分かったのですが、射撃とフェンシングはどういうものかが全く分かりませんでした。そんな状態からのスタートです」

 きっかけは父親からの勧めではあったが、現在は近代五種の魅力にのめり込み、既に10年以上の競技キャリアを持つ。5種目の中で才藤選手が最も得意にするのがフェンシングだ。在学していた早稲田大学では、フェンシング部の女子主将を務め、フェンシング競技でも東京オリンピックの出場を目指している。

int_50_5

「(近代五種とフェンシングの両立には)こだわりがあります。海外では(近代五種と5種目の中で)違う競技を両立している人もいます。日本でもできたらいいなと思っています。日本で両立しているのは自分だけですね。近代五種の選手がフェンシングの試合に出ることはありますが、両方でトップを目指す選手はいません」

 飄々(ひょうひょう)とした口調ながら、二刀流での挑戦に向け、目を輝かせた。一方で馬術に関しても自信をのぞかせる。通常の馬術競技なら、“相棒”とは長年に渡ってコンビを組むため、癖や性格を知ることができるが、五種競技の場合、抽選で馬を割り当てられるのだ。

 馬術のスタート1時間前にその日の騎乗馬が決定する。乗ることができるのは、ウオーミングアップの20分間だけ。そんな条件の中、才藤選手が自信をのぞかせる理由は一体なんなのだろうか。

 もともと馬の癖を観察するのは得意だという。大学の卒業論文のテーマも馬術に関係するものに取り組み、馬上での競技者の筋活動に着目。馬が障害を跳ぶ瞬間などに人間の体の筋肉がどう動くのかを研究したという。

「どこの筋肉がどういうタイミングで動いているのか、(馬術競技者の)10人程度のデータを取り、調べました。体の使い方も研究できたので、競技にも生きています。少しでも競技につなげたかった。馬術は点数に差がつく種目です。こういった研究が失敗のリスクを減らすことにつながっていると思っています」

世界で戦うために必要なことは

 全く異なる5種目。練習場所や、トレーニング時間などのスケジュールは基本的にはすべて自身で決めている。ランニングに関しては、授業の合間などで時間を見つけ、大学や家の周囲を走ることもある。水泳も時には市民プールを使う。一方で射撃は施設が少なく、馬術に関しては年に3、4回の合宿で集中的に練習を積んでいる状況だ。

「スケジュールを立てるというよりは、空いた時間にやれる練習を入れていく。ここの午前中が空いたから走ろうとか。大変なのは馬術と、射撃ですね。練習場所がなかなかない。(射撃の練習は)今は家でやっています」

 父の影響で始まった競技人生。22歳になり、東京オリンピックが目前に迫ってきた今、オリンピアンである浩さんの存在をどう感じているのだろうか。

int_50_6

「父親がオリンピックに出ているので、負けないようにじゃないですけど、出られたらいいなと思っています。(オリンピックを)目指そうと思ったのも父親の影響。競技を始めたときからオリンピックに出たいと思っていました。小さい時には難しさは分からないじゃないですか。真剣に目標として考え出したのは、高校生くらいからです」

 2020年東京オリンピックが視界に入り、父の偉大さもあらためて感じるという。オリンピック出場へ向けて、現状の自身の立場を冷静に分析して、課題を口にする。

「苦手種目をしっかり克服しないと、上位には入れないと感じています。苦手のランニングが最後の種目。ランニングが得意な選手と競ったら、(今は)どうしても負けてしまう。そこをしっかり克服すれば技術系の馬術、フェンシング、射撃は得意なので、日本でも世界でも戦っていけると思っています」

 2016年のリオデジャネイロオリンピックの女子の出場枠はわずか1。日本代表として出場した朝長なつ美選手らも2020年の東京オリンピックを目指しており、競争はし烈だ。

五種は難しくてもまずは三種から

int_50_7

 一方でもう一つの使命も強く感じている。近代五種競技の普及だ。積極的にメディアに露出し、競技について何度も伝えてきた。

「私自身かなりマイナーな競技だと感じています。それでもメディアに出る機会は増えました。今まで近代五種の説明は(メディアを通じて)何度もしてきたと思いますが、競技を知っている人の方がまだまだ少ないと感じています。まずは知ってもらうことから始めたい。こういう競技があるということを、少しでも知ってもらって、会場に足を運んでもらいたい。全日本選手権は日本で一番大きな試合ですが、それでも関係者しかいないんですよ」

 普及にはまず競技を知ってもらうこと。競技普及の一翼を担っているのが、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金だ。近代五種の“入門編”とも言える、近代三種(水泳とレーザーラン)の大会「ジャパン近代3種シリーズ」の開催にも活用されている。近代三種から競技を始め、その後、近代五種でオリンピックへ出場した選手も過去にはいる。近代五種へ向かう登竜門のような競技だ。

「こういった大会があることで、近代三種から始める人も増えてくると思う。五種は難しくてもまずは三種からやってみようと。大会の開催を支援してくださることは、競技人口を増やすこともそうですし、日本のスポーツ全体の発展にもつながると思います。その大会で競技を見た人にやってみようと思ってもらえるかもしれません」

 テレビ中継されることも、身近に触れる機会も少ない競技。それが才藤選手にとっては歯がゆい。自身が競技のことをもっと発信して、もっと身近になれば、若い世代が近代五種の世界に一歩足を踏み入れるきっかけになると信じている。

int_50_8
int_50_01

才藤 歩夢さいとう あゆむ

1996年9月14日、東京都生まれ。埼玉栄高等学校から早稲田大学に進学。父の影響で10歳から近代五種競技を始める。中学校時代にはジュニア日本代表に選出されアジア選手権に出場。2017年2月に行われた近代五種ワールドカップでは混合リレーで2位。フェンシングでは、2015年の全日本学生選手権で団体優勝、2016年には個人優勝、全日本選手権でも2015年と2017年の2度団体優勝。同大学のフェンシング部で女子主将を務めた。

アンケートにご協力ください。

Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
なんとなく理解できた
理解できなかった
Q2

スポーツくじ(toto・BIG)の取り組みに共感できましたか?

とても共感できた
なんとなく共感できた
共感できなかった
送信