インタビュー

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歴史に名を刻んだ思い出の世界体操 元女子エースが語る新技誕生物語

体操 杉原愛子さん

2度目の成功で『スギハラ』命名 歴史に名を刻んだ日本女子4人目の快挙

 リオデジャネイロ大会、東京大会とオリンピックに2大会連続出場し、今年6月の全日本体操種目別選手権を最後に競技生活に「一区切り」をつけた体操の杉原愛子さん。彼女にとって、忘れられない大会がある。2017年、カナダ・モントリオールで開かれた世界体操競技選手権(世界体操)の決勝の舞台。予選では温存した、『スギハラ』と命名される新技「足持ち2回ターン」を平均台で披露し、完璧に決めた。技が決まった瞬間、「笑っちゃった」と成功した嬉しさと喜びで思わず顔が綻んだ。

 当時の状況を、「リオデジャネイロオリンピックは団体戦でしたが、2017年の世界体操は個人総合のみ。ベストなタイミングだった」と振り返る。前年、16歳で出場したリオデジャネイロオリンピックでは48年ぶりの団体4位入賞を果たした後、同年12月の豊田国際体操競技大会で、実はこの新技に成功している。しかし、男子は国際大会であれば新技として認定されるが、女子の場合はオリンピックか世界体操でないと認定されないという。

「この時の悔しさもあったし、絶対に自分の名前をつけたかった。名前がついたらすごくかっこいいなって。だから、2017年の世界選手権で決めたかったんです。その前に一度成功しているし、決勝はみんな同じ位置からのスタートになるので、(順位よりも)自分の持っている技を披露したいという想いのほうが強かった。『やれるぞ』という確信があった中でのチャレンジでした」

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 正式に新技として認定されるまでには少し時間が掛かる。杉原さんは演技後、「難易度がEスコアに承認されたので、点数が出てからは(新技として認定されることを)確信していた」と語るが、正式に自身の技が『スギハラ』と命名されると、「ホッとしました」と笑顔がこぼれた。

「技に自分の名前がつくというのは、歴史に自分の名前が刻まれるということで、それは限られた人でしかないわけですし、日本の女子では4人目。人数も少ないですし、すごく嬉しかったです」

 17歳にして体操界の歴史にその名を刻んだ杉原さんだが、彼女が繰り出すアクロバティックな技や、指先まで意識された繊細な美しさ、そして真剣なアスリートの表情の中に時折見せるキュートな笑顔が、自然と観る者を笑顔にさせる。「一般の方ではできないことをいかに簡単に、そして美しく見せるか。それが体操の魅力の一つです」。杉原さんはそう言い切った上で、自身の考えを口にする。

「私の場合は、自分自身も演技を楽しみながら、その上で観客の皆さんを楽しませるような演技をすることを意識しています。例えば、アーティストさんがライブをするような(感覚で楽しませる)演技をすることも、私の中では体操の魅力の一つなんじゃないかなと思っています」

各種目の魅力もさることながら世界体操では演出にも注目してほしい

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 世界体操はオリンピックに並ぶ権威ある大会であり、ワールドカップ同様、世界を相手に戦う国際大会である。そして何より「団体で出られるのか、個人で出られるのか」、オリンピックの出場権を懸けた重要な大会でもある。

「私個人にとっては、自分の技に『スギハラ』という名前がついた大会なので思い出深いですが、プレッシャーを感じながらも日本代表として戦えたことに誇りを持っています」

 開催される演技は、跳馬・段違い平行棒・平均台・ゆかの4つの種目。「数秒」で決まってしまうダイナミックでパワフルな跳馬は「高さやスピード」が最大の魅力であり、二本の棒が平行に並ぶ段違い平行棒は「手放し技や、上から下、下から上に飛び移ったりする時の美しさが魅力の一つ」である。ハガキと同じ10センチ幅の台の上で演技する平均台は、「恐怖心を抑えつつ、ジャンプや宙返りなどダイナミックな技を行いながら、ダンスの要素も入ってきます。落下するかもしれないというハラハラドキドキを感じつつ、つま先までしっかりと伸びた足が180度開脚する美しいジャンプも魅力」だという。

 さらに体操女子の“花形”と言えば、ゆかだ。1分半の競技時間の中で、曲を使ってダンスをしながらターンやジャンプなどアクロバティックな演技を披露。「ダンスで自分のキャラクターを表現するんですが、演じている中でいかに観客に見入ってもらえるか、引き込む演技ができるかが勝負なんです。さらに、美しさの中にダイナミックでアクロバティックなジャンプや技が入ってくるので、そのギャップが魅力です」とも話す。

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 10月29日からイギリスのリバプールで開催される今年の世界体操では、団体で上位3カ国が2024年にフランスで行われるパリオリンピックの出場権を獲得できる。女子は日本から5選手が出場するが、「今大会は強豪国が出場しなかったりするので、日本女子はチャンス」と杉原さんはエールを送る。しかし、同時に「イタリアやブラジルがジュニアから強化に力を入れてきていて、競技力がすごく向上して、強くなっています。なので、この2カ国にも注目しています」と分析している。

 今大会に出場する女子5選手は全員が初代表となる。唯一、山田千遥選手(朝日生命体操クラブ)は2019年大会で補欠選手として同行していたこともあり、大会自体の雰囲気を知っている。しかし、競技者として出場するのは初めてだ。「みんな初めてなので動揺もすると思います。でも、逆にいい意味で言えば、初めてだからこそ頑張ろうと気持ちもすごく上向きになるんじゃないかなと思います。実際に私自身が初代表の時はそうだったので。今回は若いパワーで頑張ってほしいなと思っています」。

 個人的に観てほしいのは、「会場の演出」だという。杉原さんが出場した2015年大会(スコットランド・グラスゴー)、思い出の2017年大会(カナダ・モントリオール)では、観客席が暗転し、演技をする競技者だけにスポットライトが当たるような演出になっていた。「普通に競技大会を観るのではなく、ショーのような感じで観ていただけると、より体操の面白さが伝わるんじゃないかなと思います」。

 4歳から始めた大好きな体操について語り始めると、観てもらいたい気持ちがより熱くなるようだ。

(当記事は2022年9月に新型コロナウイルス感染症対策を行った上で取材・撮影を行いました。)

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杉原 愛子すぎはら あいこ

1999年9月19日、大阪府生まれ。姉の影響で4歳から体操を始め、体操クラブに入団した小学4年生の頃から本格的に体操競技に取り組み始める。中学3年生の時にアジアジュニア体操競技選手権大会で団体優勝、個人総合2位を果たすと、同年の全日本ジュニア体操競技選手権大会では個人総合優勝。高校生になると、シニアで初の国際大会となったアジア体操競技選手権で団体総合優勝、個人総合優勝を果たし、日本代表の一員として貢献した。世界体操競技選手権には、2015、2017、2018、2019年の4大会で日本代表入り。2017年のカナダ・モントリオール大会では平均台で足持ち2回ターンを成功させるとE難易度の認定を受け、新技として自身の名前『スギハラ』と命名された。オリンピックは2016年リオデジャネイロ大会と2021年東京大会に出場。2022年6月の全日本体操種目別選手権を最後に競技者生活に「一区切り」をつけた。

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