インタビュー

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次世代に繋ぐスポーツの魅力 リレー銀メダリストが考える本物の一流

陸上 末續慎吾選手

「もう辞めないのか?」から「なぜ走り続けるのか?」へ

 陸上男子200メートルの日本記録を持つ末續慎吾選手。2003年に横浜で開催された日本陸上競技選手権大会で叩き出した20秒03という記録は、20年近くたった今も破られないままだ。この間、陸上界では世代交代が進み、“顔”となるスター選手も変わった。だが、その中で変わらないこともある。42歳の末續選手が現役であり続けることだ。

 これまでの陸上短距離界では、40歳を越えてもなお現役であり続ける例は、マスターズに転向する以外ほとんどない。今でも競技者であり続ける道を選んだのはなぜか。

「単純に言えば、陸上愛だと思います。ただ、今までの競技者とは少し捉え方が違うのかもしれません。勝てても勝てなくてもランニングはできるし、自分がその時に戦える場所で戦えばいい。それを世の中がどう捉えるか。折り合いがつくかつかないかだけの話だと思います」

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 ここ数年、末續選手は「なぜ走り続けるのか?」と聞かれるようになったという。それ以前は「もう辞めないのか?」と聞かれ続けた。

「もちろん、最初は『辞めないのか』と聞かれることに葛藤はありました。30歳前後の多感な時に。男性は男性なりにあるんですよ(笑)。それが35歳くらいから聞かれなくなった。皆さん、諦めたんでしょうね。この人は辞めないなって(笑)。ただ、不思議なことに、続けている姿やそのプロセスに共通点を感じて下さる方もいて、最近は金融系や医療系などの企業から、僕のこの浮世離れした生き方の真髄を知りたいと講演の依頼をいただくことが増えました」

 ビジネスの世界で活躍する人々との交流は、末續選手にとっても新たな発見や気付きを得られる貴重な機会となる。走り続ける自身とビジネスパーソンに共通する「エッセンス」とは。

「一つのことに対して誠実に向き合って行くことが、基本的にはどの世界でも必要。それが陸上界なのか、ビジネス界なのか、の違いだけ、そこにいるのは人間だから本質的なところは共通するんだと思います。時の流れとともに需要が変わってきたとも感じています。ひと昔前はタイムリーな活躍をした人の話を聞くことが多くて、僕のような競技の続け方をしている人間に対して興味の矢印は向かなかった。ここ10年ほどで世の中のスポーツの受け入れ方が変わってきたと思います」

想いを共有するコミュニティを運営「象徴として走り続けたい」

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 日々の練習を欠かさず、走りを究める道を進む末續選手だが、自身を客観的に見る視点とバランス感覚を持っている。走り続けることが単なる自己満足で終わらないよう、「単なる酔狂になって」しまわないよう、自分の経験と智慧を伝える場として立ち上げたのが「EAGLERUN(イーグルラン)」だ。EAGLERUNでは現役アスリートの指導を行う指導者の顔も持つ。

「本当の一流スポーツ選手って、自分がやってきたことをきっちり別の誰かに渡せる手段を持っている人だと思うんです。イチローさんも高校生に対してアウトプットしていますし、剣の道を究めた宮本武蔵も『五輪書』を残した。自分が学び得たものを自分だけのものにするのではなく、より多くの人にアウトプットできることが素晴らしいと僕は思う。そこからまた、歴史に残るような人物が出てくるかもしれませんし」

 EAGLERUNでは、“走る”をキーワードに乳幼児からお年寄りまで全世代の人々が繋がれる「EAGLERUN RUNNING COMMUNITY」(ERC)を神奈川県平塚市で運営。信頼を寄せる荒川優コーチを中心に、生涯走り続けたいという末續選手の想いを共有する場となっている。

「クラブではなくコミュニティなので卒業はありません。来たい時に来ればいいし、速く走る必要もない。グレード分けもありませんから、0歳から100歳以上まで全ての人が気軽に参加できる地域のスポーツコミュニティ。敷居はものすごく低いです(笑)。ただ、不思議なことに皆さん、走るのが速くなるんですよ。高齢の方は負けじと走りますし、大人は子どもに格好いい姿を見せたいし、子どもは認めてもらいたい。かつての日本にあった大家族みたいな雰囲気ですね。ネイティブアメリカンには7世代先のことを考えて行動しようという教えがあるそうですが、小さくてもいいのでERCも継承されてほしいし、その象徴として僕は走り続けたいと思います」

 スポーツくじの収益による助成金もまた、日本のスポーツ文化が未来へ継承されるよう、次世代アスリートの発掘・育成や地域のスポーツ施設の整備など、幅広く活用されている。このように日本のスポーツ界を支える仕組みについて「ずっと継続していただきたいなと、シンプルに思います」と末續選手は話す。

 競技者として速さを追求しながら、楽しさも追求し、指導者として後進の育成にも励む。「僕は常にスポーツを手段としながら、何かを表現する側にいる人間なのかもしれませんね」。この先は一体どんなことを表現していくのだろうか。「それは乞うご期待。その方が楽しいじゃないですか(笑)」。楽しみに待ってみよう。

(当記事は2022年8月に新型コロナウイルス感染症対策を行った上で取材・撮影を行いました。)

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末續 慎吾すえつぐ しんご

1980年6月2日、熊本県生まれ。小学生の頃から運動が得意で、全国小学生陸上競技交流会に出場。中学でも好成績を残し、高等学校では国民体育大会の100メートル走で2度優勝を飾った。大学2年生だった2000年にシドニーオリンピックに出場。2003年の第9回世界陸上競技選手権大会は200メートルで3位となり、日本短距離界史上初のメダルを獲得。シドニーに続き、2004年のアテネ、2008年の北京と3大会連続でオリンピック出場を果たし、北京では4×100メートルリレーで第2走者として銀メダル獲得に貢献した。2015年からプロに転校し、現在も現役選手として走り続け、10月に行われた北九州陸上カーニバル2022では100メートルで10秒77を記録。自身が持つ40歳以上の日本記録を更新した。選手を続けながら「EAGLERUN(イーグルラン)」を主宰し、後進の指導やスポーツの普及にも努めている。日々の活動の様子は自身のSNSで発信中。

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