インタビュー

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出産後も活躍できる事例に パラスキー選手がめざす育児と競技の両立

クロスカントリースキー・バイアスロン 阿部友里香選手

「スポーツから学ぶ、成長のヒント」GROWING byスポーツくじ。今回は、クロスカントリースキーとバイアスロンでパラリンピック4大会連続出場をめざし、出産を経て競技復帰を果たした阿部友里香選手が登場する。阿部選手は、2023年4月に第一子を出産。「色々な方のサポート」を受けながら、出産予定日の3日前までトレーニングを続けていたという。後編では、計画的な産前・産後のトレーニングに取り組みながら、女性アスリートのライフステージに応じたキャリアの「事例」を作りたいという想いに迫る。

(前編はこちら)「何か変えられないかな」 人生を豊かに変えたパラスキーとの出会い

医師のアドバイスを仰ぎながら計画的に妊娠・出産

――福岡県在住の阿部選手は2023年4月に第一子となる女児を出産されました。2026年のミラノ・コルティナダンペッツォパラリンピック出場を見据え、産前・産後と計画的にトレーニングを進めています。

「2022年の北京パラリンピックが終わったら子どもが欲しいね、と夫とは話をしていました。もし無理であれば4年後になるかな、と。女子サッカーの澤穂希さんの出産にもアドバイスされたという大分県にある西別府病院の松田(貴雄)先生に出会うことができ、『アスリートにとって出産はいいことがいっぱいあるよ』と言ってもらえて。幸運にも、子どもを授かってからも身体の状態を診てもらいながら『このトレーニングはしても構わない』『これはやめておいた方がいい』など判断していただいたので、安心してトレーニングできました。体調には気を遣いましたが、妊娠4か月目になっても他の選手と一緒に合宿にも参加できました」

――しっかりと体調をコントロールしつつ、ギリギリまでトレーニングされていたわけですね。

「『妊婦さんはもっと安静にしなきゃいけない』『妊婦さんはあまり寒いところに行かない方がいい』と周りから言われたこともあります。でも、色々な方のサポートを受けて出産予定日の3日前までトレーニングできました。それに先生に勧められた無痛分娩にしてみて、体力の回復が早かったような気がしています。体重も5キロくらいしか増えなくて(出産後)病院の管理された食事を1週間摂るだけですぐに戻っていきましたね」

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――「色々な方のサポート」があったとは?

「日本障害者スキー連盟が女性スタッフを集めてチームを作ってくれました。皆さん親身に相談に乗ってくれて、すごく助かりました。JISS(国立スポーツ科学センター)の女性アスリート支援プログラムをもとに産前・産後のトレーニングもやっていきました。(産後)1か月で松田先生の診察を受けた際に、MRI検査の結果も受けて『もう本格的に運動して大丈夫』とお墨付きをいただきました」

育児とトレーニングの両立で意識する「時間の使い方」

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――復帰に向けて、まずどのように目標を立てたのでしょうか。

「4月に出産したので翌年(2024年)3月くらいには国際大会に出場できたらいいな、と考えていました。その前にトレイルランニングの大会に出たり、スキーの大会に出たりと、一つひとつをクリアしながらという感じです」

――退院後は、育児とトレーニングの両立にチャレンジなさっています。

「育児は想像以上に大変です。朝早く起きて子どもにミルクをあげることから1日が始まります。夫も仕事があって、なるべく早く家に帰ってきてくれるのですが、どうしてもワンオペになる時間が長くなります。左腕のハンディキャップもあって、腱鞘炎にもなりました。子どもはまだ保育園に入っていないので、一時保育で預かってもらえる時にトレーニングに行くようにしています。母親になってみて時間の使い方をすごく考えるようになりました。時間があるなら『明日でもいいかな』となりますが、時間がないから『今のうちにこれをやってしまっておこう』となるわけです。

 子どもを合宿に連れて行くこともあります。チームの皆さんも可愛がってくれますし、場が和むんじゃないかなと思います。そういった環境は(今のパラスポーツ界では)普通ではないかもしれませんが、自分で変えていくことができるならそうしたいと考えるようにもなりました」

――子どもの成長がモチベーションに繋がるとも思います。

「つかまり立ちをするようになって、なおさら目が離せなくなって大変ですけど、ものすごいスピードで成長していくんだなと実感しています。ハイハイができなかったのに次の日にはできるようになった時も『赤ちゃんはすごいな』と。『どうして私は次の日にできないんだろう』と思ったこともありましたよ(笑)。毎日の成長を見ることができるのは、本当にうれしいですね」

出産後に競技復帰して活躍する事例を作りたい

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――「ママアスリート」として活躍していくことをめざされています。

「今後のために、出産後に復帰して活躍する事例を作っていければいいですね。それに出産してからパラスポーツをやってみたいと思う女性だっていると思うんです。子どもがいるからといって諦めてしまわなくてもいいと、今、私が示すことのできる立場にいるわけですから、やっていかなければと思います」

――使命感に近いのでしょうか。

「それはあると思います。私は色々な方のサポートを受けていることができて本当にありがたかった。出産で競技を諦めてしまう人が増えたら、ただでさえ競技人口が少ないのにもっと減ってしまうことにもなりかねません。復帰して競技でいい成績を残していくこともそうですが、成績以外でも私が何か残せるとしたらこれなんじゃないか、と。ちゃんと事例を作って『やれることはやった』と競技生活を終えられたらいいなと、強く感じています」

――実際に取り組んできた中で、何か課題は感じていらっしゃいますか。

「課題というほどではないのですが、今は、一般の妊婦さんに対するマニュアルにプラスアルファして(試している)、という感じだとは思います。もちろん妊婦の安全が一番ではあるのですが、いつまでなら大丈夫なのかなど、もう少し可能性を探ることがあってもいいのかなと、個人的には思いました」

身近な目標を積み上げながら図るレベルアップ

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――阿部選手のキャリアを振り返ると、パラリンピックに3大会連続で出場するなど、ずっと変わらずモチベーションを維持している印象があります。

「私は先々の目標を立てると『まだこの目標まで時間がある』と思ってしまうタイプ。どちらかと言えば、結構身近な目標を立ててそれをクリアしていく方が合っていると思ってからは、そのようにしています。積み上げの繰り返しでレベルアップを図っていくやり方ですね。

 昔、メンタルトレーニングを受けた際に『大きい目標を立てた方がいい』と言われて、実際にやってみたらあまりうまくいきませんでした。パラリンピックまでの4年間は長いですし、あと4年、あと3年……と思うと気持ち的にちょっとしんどい。目の前にある大会を含めて、1年ずつクリアしていこうと考えた方が気持ち的にも楽かな、と。だから、今も次のパラリンピックというより、1年後にどうなっておくとか、身近な方をまずは考えるようにしています」

――最後に、阿部選手がトレーニングでも利用する福岡市内の運動施設にも、スポーツくじの助成金でソフトボール球場のフェンスが作られていました。助成金がスポーツ振興に役立てられていると感じる機会はありますか。

「今住んでいる福岡でも、故郷の(岩手県)山田町でも、子どもたちがよく使っているスポーツ施設などに『toto』の看板を本当によく見かけます。身近なところでサポートを受けているんだなと感じることができています」

※スポーツくじの収益は、グラウンドの芝生化をはじめとしたスポーツ施設の整備、地域のスポーツ大会・教室の開催や未来のトップアスリートの発掘・育成など、日本のスポーツ振興のために役立てられています。

(前編はこちら)「何か変えられないかな」 人生を豊かに変えたパラスキーとの出会い

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阿部 友里香あべ ゆりか

1995年10月7日、岩手県出身。日立ソリューションズ「チームAURORA(アウローラ)」スキー部所属。出生時の事故の影響で、左腕が動かない障がいがある。小学生の頃からバレーボールに励むが、中学2年生の時にテレビで観たバンクーバーパラリンピックをきっかけにクロスカントリースキーを始める。2011年に東日本大震災で被災したこともあり、スキーの強豪・岩手県立盛岡南高等学校に進学。健常者と一緒に練習し、スキーの腕を磨いた。高校3年生の時にソチパラリンピックに出場し、クロスカントリー・クラシカルで8位に入賞して以来、3大会連続出場中。2021年に結婚、2023年4月に第一子となる長女を出産した。

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