金メダリストになる夢を達成した今もなお、練習の手を緩めることはなく、その量はさらに増している。「今年で30歳。疲れが抜けるのに時間がかかったり、（若い時に比べて）怪我が怖くなるので、練習で思い切って技に入れないとか。やっぱり身体と心は弱くなっていくので、さらに強くなるにはとにかく練習するのが近道だと思うんです」。まだまだ強くなりたい。そう願う気持ちの原動力は、実にシンプルだ。

「僕は柔道が好きだし楽しいので、やっぱり自分が一番好きなもので強くなりたいし、勝ちたいじゃないですか。それだけですね。小学生の頃と同じ気持ちでできている。そこが僕の強みだと思います。勝ったらうれしいし、新しい技ができたらうれしい。その想いだけでやっています」

　年齢を重ねるにつれ、感じる成長は少なくなる。それでも「自分の伸びしろの中で最大限の努力をすれば、世界一になれる強さを持っていると思う。だから楽しいですよね」と目を輝かせる。できないこともあるが、できない理由を探ることもまた楽しい。柔道を究める作業は、大好きなゲームで攻略法を探る作業に似ているという。

「裏技を使わずにコツコツとレベルを上げる。自分のレベルが上がれば相手を楽に倒せるし、派手な倒し方もできる。攻略法が増えるし、技の理解も深まって内容も濃くなります。身体が勝手に動いて技が出るまで、自分のものになる瞬間が来るまで、練習し続けるだけですね」

　連覇を目指す2024年のパリオリンピックには、金メダリストかつ世界選手権大会覇者である“絶対王者”として乗り込む意気込みだ。そのためにはまず、今年5月の世界選手権での連覇が必須。その先に、パリの舞台で頂点に立つ姿をイメージしている。

「東京では団体戦でフランスに負けたのがショックだったので、これはやり返さないといけない。（フランスで柔道は人気が高いので）パリオリンピックで柔道はすごく盛り上がると思います。そこで、まず僕が完璧な勝利で静まり返らせて、日本にいい流れを作る光景を想い描いています」

　リオデジャネイロ大会ではオリンピック特有の観客が持つ“熱”に圧倒された。「オリンピックはお祭りだから、盛り上がり方、熱の感じ方が全然違うんです。こっちまで飲まれてしまうような感じでした」。だが、無観客開催だった東京大会ではその“熱”を十分に感じることはなかった。「だからこそ、パリではまた熱を感じながら金メダルを獲りたいですね」と力強い。

　柔道大国・フランスでの連覇達成は決して容易なことではないが、地道にレベルアップを図りながら、新たな攻略法を増やし続けていく。

（当記事は2023年1月に新型コロナウイルス感染症対策を行った上で取材・撮影を行いました。）

※スポーツくじの収益は、グラウンドの芝生化をはじめとしたスポーツ施設の整備、地域のスポーツ大会・教室の開催や未来のトップアスリートの発掘・育成など、日本のスポーツ振興のために役立てられています。