「『なんか他の人と違うな。変わっているな』と思ってもらえたら、僕は嬉しい」

　ここで改めて、BMXフリースタイル・パークという競技を紹介しておこう。オリンピックの正式種目には東京大会から採用された競技で、ジャンプ台やすり鉢状のセクションが配置されたコースを舞台にジャンプやトリックを組み合わせた演技で競う。技の難易度やジャンプの高さ、オリジナリティなどを99.99点満点でジャッジが採点。1分間の演技（クラスによって異なる）を2回行い、予選では2回の平均得点、決勝では高い方の得点で順位や勝敗を決める競技だ。

　空中で車体と一緒に回転したり、車体だけを縦や横に回転させたり、両手を離してハンドルを回してみせたり。スロープを使ったジャンプは高さ5メートル以上に達することもある。中村選手は競技の見どころについて「同じ技でも選手それぞれ個性がある。この人はジャンプが高いなとか、この人はよくハンドルを回すなとか、横にクルクル回るなとか、その違いを見てみると面白いと思います」とアドバイスする。

　中村選手の代名詞となっているのは、滞空時間の長いジャンプを駆使した数々のエアトリックだ。「ジャンプの高さにこだわったり、他とは違う技の組み合わせを意識したりしているので『なんか他の人と違うな。変わっているな』と思ってもらえたら、僕は嬉しいです」とニッコリと微笑む。「BMX（フリースタイル・パーク）は魅せる競技でもある。すごくても同じ技を何回もするより、新しい技に挑戦する方が観ている人も面白いと思う」とも話し、過去の自分ともまた違いを生み出そうとしている。

　BMXライダーだった父の影響で3歳からBMXに乗り始めた。それ以来、毎日のようにBMXに乗り続けているが飽きることはない。「徐々に難易度が上がる中、新しいことに挑戦して成功した時の達成感は、他では味わえないような感覚。怪我がつきものなので今でも常に恐怖心はあるけれど、そこから解き放たれて成功した時は本当に嬉しいんです」と声を弾ませる。

　大会ではイヤホンから流れる音楽を聴きながら恐怖心を拭い去る。覚悟を決めるのは、ペダルを漕ぎ出す瞬間だ。「『よし、やってやるぞ』という気持ちですね。中途半端にやるのが一番危ない。やると決めたら絶対に決める気で迷わずいきます」。走り出したら、コースに合わせて組み立てたルーティンをBMXと身体で表現するだけ。「お客さんが多ければ多いほどテンションが上がるのでいい走りができます」と歓声をエネルギーに変えてペダルを踏む。

　今、目指すのは、2024年パリオリンピックでの金メダル獲得だ。「オリンピックで勝ちたいというより、東京で悔しい想いをしたので、そのリベンジをしたい気持ちの方が大きいですね」。オリンピックでの借りはオリンピックで返すためにも、挑戦者の気持ちで攻め続ける。

（リモートでの取材を実施）

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中村　輪夢なかむら　りむ

2002年2月9日、京都府生まれ。元BMXライダーでBMXショップを営む父の影響で、3歳からBMXに乗り始め、5歳でジャンプに挑戦。小学生の頃から大会に出場して頭角を現すと、中学生でプロに転向した。2017年に全日本BMXフリースタイル選手権大会の初代王者に輝くと、2019年に17歳の若さでUCI BMXフリースタイル・パーク ワールドカップ年間総合優勝。同年のX Gamesミネアポリス大会では銀メダルを手にし、FISE WORLD SERIES HIROSHIMA 2019でも2位となった。東京オリンピックでは5位。2022年のUCIアーバンサイクリング世界選手権大会では念願の初優勝を決めた。

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