インタビュー

インタビュー
いわて雫石アーチェリーセンターが紡ぐ、競技・地域・人々の繋がりと活気
橘拓也さん(雫石町 生涯文化スポーツ課)、小野寺まどかさん(雫石町 生涯文化スポーツ課)、山崎浩一さん(雫石アーチェリークラブ代表)
人が自然と集うスポーツの現場には、必ず理由があります。練習の場を支える人、技術と魅力を伝える人、そして挑戦する人など。お互いがお互いを必要とし、支え合うことでその関係性が循環し、新しい文化が育まれていく。そんな、スポーツを通じた地域振興のあり方の理想形の一つと言える場所が、岩手県雫石町にあります。
小岩井農場やスキー場、鶯宿(おうしゅく)温泉などを擁するこの地は、長らく人口減少に伴うさまざまな課題を抱えていました。それが今、アーチェリーを中心に活気づいています。スローガンは「弓射る町 夢射る町 雫石」。
2023年4月にオープンしたいわて雫石アーチェリーセンターは、廃校となった旧南畑小学校を活用し、競技者の強化拠点として、同時に地域住民が集い、世代を超えた交流が生まれる場として再生した施設です。行政、競技経験者、そして地域住民──それぞれの立場から関わる方々に話を聞き、同施設がもたらした変化と、その先に描く未来を探りました。
一年を通じて最高の練習場を提供する国内屈指の拠点
全国の地方自治体と同様に、人口減少が進んでいる雫石町。かつて10校あった小学校は半数にまで減少し、廃校となった施設の利活用が課題となっていました。
「小学校の跡地を活用して地域住民の繋がりをつくり、いかに賑わいを創出していくかが大きなテーマでした」と語るのは、町のスポーツ振興を担う雫石町 生涯文化スポーツ課の橘拓也さん。いわて雫石アーチェリーセンターの敷地にあった旧南畑小学校の卒業生でもある橘さんは、「こういう形で母校で働くとは夢にも思っていませんでした」と笑顔を見せながら、こう話してくれました。
「ここは地域の方々にとって愛着のある、思い出の詰まった場所でした。ですから、新しい取り組みを進める時も、地域の方々の思いを大切にしながら計画を進めてきました」
橘拓也さん(雫石町 生涯文化スポーツ課)
雫石町らしい廃校跡地の使い方とは? その答えがアーチェリーでした。背景にあったのは、2016年に開催された「希望郷いわて国体」。同大会で、雫石町はアーチェリー競技の会場に選ばれました。国体を一過性のイベントで終わらせず、レガシーとしてどう生かしていくのか──練習場の不足などマイナー競技ならではの課題を抱えていたアーチェリーと、町を悩ませていた諸問題が交差するポイントから浮かび上がってきたのが、「日本最大級の屋内アーチェリー射場の建設」でした。
かつて校庭だった区画は、施設内から70m先の屋外の的に向けて最大37名が同時に射つことができる練習場に。射った矢をリアルタイムで確認できる大型モニターも設置されている
橘さんは、この施設の強みを力強くこう語ります。
「本来アーチェリーは屋外で実施する競技ですが、特に雪が降る地域の場合、通常の練習場では冬季に十分な練習環境が用意できないという課題がありました。いわて雫石アーチェリーセンターは施設内から屋外へ向かって矢を射つことができ、矢を取りにいく際の屋根付きの屋外通路も備えています。天候に左右されず大人数が練習できる、国内でも他に類を見ない施設です。
また、建設地の旧南畑小学校はグラウンドが防風林や校舎で囲まれ、風の影響を受けにくいという利点もあります。施設の整備にはスポーツくじの助成金も活用させていただき、アーチェリーの競技者が快適に練習に取り組むうえで、これ以上ない環境を整えることができました」
競技者目線の細やかな配慮が施され、施設内はグレーや白など落ち着いた色合いに統一。身体的な負担の軽減のために床はゴムシート仕様に
屋内施設から伸びる屋根付き屋外通路。雪や雨に濡れずに矢を取りに行くことができる
競技者にとっての魅力は、国内屈指の設備が一年を通じて利用できることだけではありません。雫石町は東北地方でも有数の温泉地として知られており、トレーニングの疲れを温泉で癒すことができるのです。アーチェリーセンターの近くには450年以上の歴史を持つ名湯・鶯宿温泉があり、100%源泉かけ流しの温泉施設や宿泊施設が並んでいます。雫石町は学生や競技団体が合宿に利用しやすいように、これらの宿泊施設との連携も進めています。
実際に、施設のオープン後は、学生を中心とした合宿利用が増え、温泉街の利用者増に貢献しているといいます。橘さんいわく「かつてに比べて集客がだいぶ落ち込んできて、活気がなくなっていた」という鶯宿温泉ですが、アーチェリーセンターができたことで新たな人の流れが生まれ始めているのです。
さまざまな大学のアーチェリー部が合宿に訪れる [写真]=雫石町
アーチェリーの裾野を広げたい。競技者であるコーチの熱い思い
そんな同施設が最も賑わうのは、毎週火曜日と木曜日の夕方。住民が2025年4月に有志で設立した「雫石アーチェリークラブ」の練習日です。参加者は小中学生から70代までと幅広く、現在の在籍数は28人。県内で競技を続けている3人のコーチを中心に練習が進められます。
小野寺まどかさん(写真左)を中心に3人のコーチが指導にあたる
コーチの1人である小野寺まどかさんは、2019年茨城国体のアーチェリー成年女子優勝メンバーという経歴の持ち主。「大学4年生の就職活動の時期に、雫石にアーチェリー場が建てられるらしいという話を聞き、アーチェリー競技者として何か力になれるのではないかと思い、雫石町への就職を決めた」そうです。現在はコーチを務めながら自身の練習にも勤しみ、雫石町職員としてはスポーツ担当の一員として、施設の維持管理業務やアーチェリーを中心とした生涯スポーツの普及推進業務などに携わっています。
そんな彼女は、「競技者として地域に貢献すると同時に、施設をアーチェリーの一大拠点として広めていくことで、競技そのものの活性化にも繋げていきたい」という思いを持っているといいます。
小野寺まどかさん(雫石町 生涯文化スポーツ課、アーチェリー選手・コーチ)
「競技人口が少ないことがアーチェリー界が抱え続けてきた課題です。アーチェリーの魅力は、ルールがシンプルで、自分が今どのくらいのレベルにいるのか、順位や実力が数字としてわかりやすく目標が立てやすいこと。この施設ができたことをきっかけに、町内外の方々にそうした競技の楽しさを知ってもらって、アーチェリーに親しむ人を増やしていけたらと思っています」
アーチェリーのような競技は施設・用具・運営が整って初めて競技が成立します。しかし、あらゆるマイナー競技がそうであるように、それらを用意するための資金を工面することは容易ではありません。スポーツくじの助成金はアーチェリー関連の施設や選手のサポートにも活用されており、小野寺さんも「日々の練習環境や大会の開催も、スポーツくじの助成金をはじめとするサポートによって支えられている」と実感しているそうです。
まるで家族のようなコミュニティ。クラブの誕生でさらなる活気
初心者も参加するクラブの練習は、メインの練習場に隣接する体育館を使って行われます。その人のレベルに合わせて的の距離を5m、15m、18mと延ばし、さらに上達すると的の大きさを調節して、30mや70mといった大会と同等の距離を狙うまでステップアップしていきます。
雫石アーチェリークラブの練習の様子。老若男女がアーチェリーを楽しむ
16時ごろから続々と集まってくるクラブのメンバーたち。学校帰りのジャージ姿の少年少女たちとシニア層が分け隔てなく会話し笑顔で練習する光景は、まるで大きな家族のような親密な雰囲気すら感じさせます。
メンバーのレベルに合わせて指導を行うことを心掛ける小野寺さんは、「子どもたちが上達したり自己ベストを更新したりした時の笑顔を見ることが、私の一番のやりがいです。彼らの『うまくなりたい』という純粋な気持ちに応えていきながら、将来活躍できる選手を育てていきたいと考えています」と語ってくれました。
雫石アーチェリークラブの立ち上げに尽力した山崎浩一さんは、アーチェリーセンターで開催された体験会に参加したことでその魅力に目覚め、現在は会社員として働きながらクラブの代表を務めています。アーチェリーに出会う前は少年野球とスキー教室でコーチをしていた山崎さんですが、「小学生の娘に何かをさせたくて参加した体験会で、自分がハマってしまった」と、はにかみながら話します。
山崎浩一さん(雫石アーチェリークラブ代表)
雫石町主催のアーチェリー体験会 [写真]=雫石町
「初めてやった時に、意外と的の中心に当たるな、という手応えがあって。2回、3回と体験を重ねるうちにどんどん楽しくなって、気がつけば娘以上に自分のほうがハマってしまっていました(笑)。それから娘と週に2回、一緒に通っています。ついこの間も、娘と一緒に(一定の成績を証明することで得られる)グリーン・バッジを取ることができて嬉しかったです」
この日の練習でも娘さんと隣同士で練習していた山崎さんもまた「将来的には、このクラブからトップ選手が生まれてくれたら嬉しい」と、施設とクラブの存在が未来に繋がっていくことに期待を抱いています。
廃校活用の成功例として次なるステップへ
設立からおよそ2年半。地域に根づき、競技を軸とするコミュニティが形成されつつある、いわて雫石アーチェリーセンターのこれまでの歩みについて、橘さんは「計画が持ち上がった当初は『なぜアーチェリーなのか?』という意見もあった」と振り返りながらも、「全国的に見ても廃校活用の成功例と言える結果になった」と手応えを感じています。
「アーチェリー強豪国である韓国では、小学生から競技を始める選手が多くいると聞きます。対して、日本では高校の部活動が競技人生のスタートというのがスタンダード。いわて雫石アーチェリーセンターと雫石アーチェリークラブができたことで、早くから競技に触れられる環境が整い、競技人口の増加と競技レベルの底上げに寄与できたら嬉しいです」
地域と競技、そして人々が支え合い、高め合うことで、活気が生まれていく──アーチェリーを介して生まれた有機的な繋がりが今後どのような発展を遂げていくのか、期待が高まるばかりです。
(取材:2025年12月)

スポーツくじの仕組みに参加してみるには?
■スポーツくじって何? アスリートのためになる?
スポーツくじの仕組みをもっと知りたい方は動画をチェック!
アンケートにご協力ください。
本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?
スポーツくじ(toto・BIG)の取り組みに共感できましたか?


