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その他

家族がくれる力と安らぎ 結婚・出産を経たハードラーの走り続ける姿(2/3)

出産したアスリートの競技復帰に必要な“社会の意識変化”

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 再びアスリートの道に飛び込めたのも、夫の理解があったからだ。「主人は、母親(となった私)がスポーツをやることに関して『(本気でやりたいなら)やったら』という感じ。仕事復帰するのと同じくらいの気持ちで背中を押してくれました。そんなに大ごとと考えずにやってこられたのがすごく大きかったです」。本業の傍ら、マネージャーとしてサポートに回ってくれた。アスリートとして復帰するまでの道のりは簡単ではなく、衰えた筋力を取り戻すまでに時間がかかったが、家族の理解や支えで乗り越えられた。

 育児との両立も一筋縄ではいかない。体力を使い切った練習後も娘と一緒にお風呂に入り、娘の歯を磨き、部屋の片付けもする。育児と競技の両立で大変だったことの一つが、子どもを預ける場所の確保。アスリートが出産を経て競技復帰をする上で、解決すべき課題の一つだという。

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「(7人制)ラグビーで競技復帰しましたが、預けられる保育園をすぐに見つけられず苦労しました。家族に頼る部分もありますが、安心して預けられる場所が整備されると一番いいなと思います。預けるのが難しいのはアスリートだけではないので、本当に日本社会全体で考えなければいけないことだと思います」

 競技復帰した後、夫のSNSに一般の人から送られてきた言葉が心に残っている。合宿から帰ってきて、また数日で出発することもあった。「小さい子どもを置いてまでスポーツをする意味があるのか」。ある高校の指導者からだった。

「まだそういう(母親は育児に集中すべきという)考えを持っている方は多いんだろうなと思った時、そういう考えの方も巻き込んで(社会全体で)一緒に子どもを育てていくような雰囲気になればいいなと思いました。私自身も『ママアスリート』とハッシュタグなどをつけてSNSに投稿することもありますが、『パパアスリート』という言葉はないですよね。ママアスリートもパパアスリートも、同じようにスポーツをすることができる社会になっていけばいいなと思います」

 そのためにメディアやSNSで積極的に発信し、環境改善や結婚・出産を経た女性アスリートとしての認知度向上に尽力している。「日本には、まだロールモデルがあまり多くはない。若いアスリートには、結婚・出産した後に競技を続けられるビジョンが見えにくいのではないか。アスリートの妊娠から出産、復帰までのプロセスをもう少し見える化できたらと思っています」。スポーツ界の未来のために、後輩にレールを敷くことを意識している。

 結婚や出産の話題だけでなく、後輩たちに技術、精神面でアドバイスを送る機会も多いという。自身をサポートしてくれる「チームあすか」とともに、次世代アスリートの支援を目的とするプロジェクト「A-START」を発足。3月には高校、大学の次世代アスリートのためのキャンプを実施した。

 アドバイスは多岐にわたる。モチベーションの作り方、競技と育児のように大きな目標が2つできた時の選択の仕方、20歳を過ぎて経験した摂食障害について語ることもある。「『一つの私の考えとして聞いてね』と前置きをした上で、嘘がないように伝えるようにしています」。若手アスリートの悩みを真正面から受け止め、想いに応えている。

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