私たちの街のGROWING

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復興のシンボルとして生まれ変わった名取市サイクルスポーツセンター

宮城県名取市

 東北の空の玄関口である「仙台空港」を有する宮城県名取市。豊かな自然に囲まれたこの街は2011年の東日本大震災で被害を受け、特に東北唯一のサイクリング専用施設として親しまれてきた「名取市サイクルスポーツセンター」は津波による甚大な被害を受けました。あれから約9年半。多くの困難を乗り越え、名取市サイクルスポーツセンターは、2020年10月についに運営を再開しました。今ではサイクリングを始め、スケートボードやフットサルが楽しめるエリア、そして宿泊施設や天然温泉なども備えた総合レジャー施設として生まれ変わり、名取市のスポーツ振興を支える拠点となっています。再建に至るまでの道のりを、名取市生活経済部 商工観光課 主査 中澤さんに伺いました。

もう一度この地に、スポーツによる賑わいを。

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 名取市の海辺に再建された「名取市サイクルスポーツセンター」。太平洋を眺めながら1周4kmを走る「サイクリングロード」や、20種類以上の変わり種の自転車が楽しめる「おもしろ自転車広場」のほか、本格的なスケートボード場や子ども向けの遊具などが充実したスポーツ施設です。爽やかな汗をかいた後は、天然温泉で汗を流したり、レストランで地元の名物を食べたり、遊び疲れたら「輪りんの宿」に宿泊することもできます。しかし、10年前はこんな景色は全く想像できなかったと、自身も名取市出身だという中澤さんは教えてくれました。

 「もともとこの場所には、地元の新聞社である河北新報社の呼びかけによって1975年に建てられた宮城サイクルスポーツセンターがありました。その後、地域に還元したいということで、名取市が運営を譲り受け、市の財産として使わせていただいていました。以前の施設はサイクリングコースやプールがあり、最盛期は5万人以上が訪れる人気施設だったと聞いています。私も小さい頃は、夏休みになるとここで自転車に乗ったりプールで遊んだりしていました」

 サイクリストや地域住民に愛されていた「名取市サイクルスポーツセンター」。しかし、10年前の2011年、東日本大震災で壊滅的な被害を受け、施設の状況は一変してしまいます。名取市全体が被害を受けた中で特に被害が大きかったのが、名取市サイクルスポーツセンターがある閖上(ゆりあげ)地区でした。

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名取市生活経済部 商工観光課 主査 中澤さん

 「このあたりは海が近く、10mもの津波が襲ったと言われています。津波の被害を受けて当時のスポーツセンターの建物は全壊。近くにあった設備も全て流され、修繕できないほどの大きな被害に遭いました」

 そこから約9年半にわたる、復興への長い長い道のりが始まりました。

 「名取市の閖上地区は、昔から続く漁師町でかつては住宅地が立ち並ぶ活気のある街でした。『あの頃の賑わいや活力を取り戻したい。震災の被害に負けずにもう一度みんなで頑張ろう』そんな想いを胸に、名取市は『名取市震災復興計画』に基づき『沿岸地域活性化振興ビジョン』を策定しました。
その一つとして、このスポーツセンターの復興も掲げられたのが2013年度のこと。でもそこからが長い道のりでしたね。
 新しい施設を建てる時に普通は、設計をして、工事をして、建物を作って、運営をして…というように進めていくと思うのですが、名取市サイクルスポーツセンターの場合は、その前段階の、震災の瓦礫をどうしよう、泥の処理をどうしよう…といった片付けをするところからのスタートだったんです。住民の皆さんや地域の企業、運営団体やスポーツ団体など、地域の様々な人と話し合いながら少しずつ進めていきました」

震災を乗り越え、新しい付加価値を創り出す。

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 そうして完成した名取市サイクルスポーツセンターは、前身の施設よりも大きく進化し、幅広い層を魅了する空間となっています。サイクリストが本格的に楽しめる工夫がある一方、初心者や家族連れがサイクリングを楽しめるきっかけを育む側面を兼ね備えています。

 「宿泊施設は、自分の愛車を持ち込めるお部屋や、サイクリングの合宿にも便利な大部屋などを用意し、サイクリストに配慮したつくりにしています。レンタル自転車のコーナーでは、最新のロードバイクからマウンテンバイクまで様々なブランドのものを多数揃えているので、普段ご自身が乗られている自転車以外も試すことができます。
 一方で、お子さまに自転車を好きになってもらうきっかけも作りたいと考え、自転車に乗れない子たちのための自転車教室を定期的に開催しています。大きくなったら今度はサイクリストとして来てくれたら嬉しいですね。また、温泉があることで、高齢のお客様も気軽に足を運んでくれるようになりました」

充実した施設として生まれ変わった名取市サイクルスポーツセンターですが、障壁となったのが資金集めでした。

「国から復興支援の資金はありましたが、以前あった施設の機能を元通りに復旧させるための資金です。ただ、震災前よりももっと良い施設にして、スポーツによって市民の皆さんが楽しみながら健康を増進させる施設にしようといった目的を考えたときに、以前の設備だけでは不十分でした」

そこでサイクルスポーツセンターの魅力をさらに高めるために活用したのが、スポーツくじ(toto・BIG)による助成金です。

「名取市の体育協会、スポーツ少年団、スポーツ関係者の皆さんといろいろと協議する中で、サイクリング以外に、健康増進につながり気軽に楽しめるスポーツはないだろうか、という話になりました。その結果、東京オリンピックの新種目に採用されたスケートボードが楽しめる専用の広場を、スポーツくじの助成を受けて開設することにしたのです。助成を受けたおかげでより充実した設備を整えることができました。東京オリンピックの時はもちろん、オープン当初から個人の方や団体の方など幅広い方にご利用いただき、休日は大盛況。スケートボード場には、セクションと呼ばれる様々な遊具があるため、技の練習をするにはもってこいの環境で、名取市以外から訪れる人もいます」

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この街に訪れる交流人口を増やすことを目指して。

 最近では新たに、スポーツセンターの魅力を市内だけではなく、市外に広める取り組みも始まっています。

 「閖上地区の名所を巡るサイクリングコースを作り、レンタル自転車でまわるサイクリングイベントを開催しています。海の幸や旬の野菜が集まる『ゆりあげ港朝市』や、名店が並ぶ商業施設『かわまちてらす閖上』、そして震災の記憶と教訓を伝える『名取市震災復興伝承館』などにお立ち寄りいただく中で、実際にまわっていただいた地域が、どのような被害を受け、どのように復興してきたかを足で学べるプログラムになっています」

サイクルスポーツセンターの復興は、地域住民にとっても大きな意味があるものでした。

 「施設ができたことがきっかけで、震災後初めて沿岸部に来たというお客様もいらっしゃいました。この地域は、震災前は栄えていましたが、津波によって街の大半が一瞬にして更地のように何も無くなってしまったんです。『まだあの時の景色のままなのかな…』と思い、何年間もこの土地を訪れたことが無かった方が、久々に閖上地区を訪れ、笑顔で遊ぶ人々で賑わう景色を見てようやく復興を実感したと聞いた時は、込み上げる想いがありました」

 万が一の時に備え、スポーツセンターは約1,200人を収容する避難ビルとしての機能も備えています。リニューアルオープンをしてまだ約1年半。今後の展望も広がります。

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 「自転車に特化した施設は、全国的にも珍しいため、サイクリングを盛り上げる拠点となり、地域の活性化につなげていきたいと考えています。また、当初の目的である“スポーツを通じた地域住民の方の健康増進”が第一ですので、これからもいろいろな方にご活用いただいて、健康を維持していただきたいと思っています。特に高齢の方は、それが介護予防になったりするので、使っていただければ嬉しいですね。また、ファミリー層の方には、今後30~40年後に、スポーツセンターに行ったという楽しい思い出を、次の世代、その次の世代へと引き継いでいってほしいなと思っています」

震災による困難を乗り越え、新しい未来に向かって着実に進み始めた「名取市サイクルスポーツセンター」。これからもたくさんの忘れられない思い出が、この地から生まれてくることでしょう。

(当記事は新型コロナウイルス感染症対策を行った上で取材・撮影を行いました。)

アンケートにご協力ください。

Q1

本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

とても理解できた
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