インタビュー

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インタビュー

一瞬で恋に落ちた新体操、その魅力「1回見たら好きになってもらえる」

多方面に活躍する元フェアリージャパンの競技人生

 新体操日本代表「フェアリージャパン」の一員として、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと2大会連続でオリンピックに出場した畠山愛理さん。現在はタレント、キャスター、モデル、そして新体操の普及活動と多方面で活躍する。

「選手時代は他の競技を観戦する機会が全くありませんでした」と話すが、現在はリポーターとして、様々な競技を取材し、選手をインタビューする。特に世に広く伝えていきたいと強い思いを抱くのがパラスポーツだ。

「『ロンドンマラソン兼2018 World Para Athleticsマラソンワールドカップ』の取材で、大会に参加された視覚障がいの日本人選手から伺ったお話が印象的でした。その選手がロンドンの空港のトイレでハンドドライヤー(手を乾かすための乾燥機)の場所が分からずに困っていると、その場に居合わせた方にポンポンと肩を叩かれ、案内してくれたそうです。そして、相手の方は静かにその場を立ち去った。その自然な対応に、障がいのある人に対してどう向き合えば良いのかが、身に付いていると感じたそうです。そんな土壌も、ロンドン大会の成功につながったのだと感じました」

 パラスポーツの取材をしていると、パラリンピック出場を目指す選手たちの競技に取り組む姿やそれを支えるスタッフの姿に、いつも新鮮な発見と驚きを感じるという。

「まだまだ知られていないパラの競技や選手についてはもちろんですが、大会に至るまでの過程や、参加する選手たちに対する思いやりの心を含め、2020年に向けて多くの方々に伝えていきたいです」

 さて、そんな畠山さんが新体操を始めたのは6歳の時。バスケットボール、水泳、クラシックバレエなど、様々なスポーツを見学するなか、音楽に合わせてクルクルとリボンを回しながら演技する新体操の楽しさに触れ、一瞬で恋に落ちた。

「当時所属していたクラブでも断トツだったと言い切れるほど、新体操に夢中でした。クラブで練習している時間だけでなく、例えば、工作の時間には粘土で新体操のポーズをとる女の子を作ったり、家庭科の時間には『RG(Rhythmic Gymnastics:新体操)』とTシャツにデザインしたりと、家でも学校でも、新体操のことばかり考えていました」

 学校から帰宅すると、上手い選手のビデオ映像を見てから練習へ。帰宅後はまたビデオを見ながら夕食を摂り、入浴後は柔軟体操をしてから就寝。これが、小学校1~6年生までの毎日のルーティーンだった。

「新体操に関してはすごく負けず嫌いでした。一緒に始めた友達は体が柔らかかったので、どうしても負けたくなくて、母に背中を押してもらいながら、毎晩、柔軟体操をしていました」

 中学では2年生で全国大会の出場権を手にした。しかし、腰のケガや貧血の症状により、自らの意思で全国大会を棄権する。その後、コーチとの関係がうまくいかなくなり、次第に新体操への情熱も冷めていき、3年生では自力で全国大会の出場権を獲得することができなかったという。

「もう一回、出たい」と思ったほどの夢舞台「キラキラと輝いていた」

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 時を同じくして、日本体操協会は2012年ロンドンオリンピックに向けて長期的な強化策をスタート。フェアリージャパンのトライアウトの特別推薦枠に、畠山さんの名前が挙がった。

「最初は、自分にはチャレンジする資格はない、と躊躇しました。気持ちが変わったのは、ふと読み返した小学校の卒業文集です。『絶対にオリンピックの舞台に立ちたい』。小学生の頃の自分の言葉が、新体操を大好きな気持ちを思い出させてくれました」

 2009年12月。トライアウトに挑戦した中学校3年生の畠山さんは、最年少で合格。その3日後には、ロシアへと旅立った。以降、日本とロシアを1か月おきに行き来しながら、1年365日のうち350日は、合宿所で共同生活を送る日々に突入した。

「今と違ってスマートフォンもなく、気軽に日本と連絡を取れる環境ではありませんでした。15歳で親元を離れ、家族や友達とも連絡が取れず、1日8~10時間続く練習ではロシア人コーチの言葉もわからない……。環境の変化についていけず、当初は毎日泣いていました。

 そこで刺激になったのが、新体操王国・ロシアの選手たち。いつも一緒の体育館で練習していたのですが、とにかくレベルがすごく高い。例えば、ロシアではクラシックバレエを取り入れたウォーミングアップを行うのは当たり前でしたが、私はバレエの経験もなく、ウォーミングアップさえもきちんとできませんでした。『このままでは、世界で戦えない』と心に火がつき、つらさを熱に変え、練習に取り組みました」

 そして2012年ロンドンオリンピック。17歳の畠山さんは夢の舞台に立つ。

「初めて立ったオリンピックの舞台は、キラキラと輝いていました。部屋にいる時は眠れないほどドキドキしていたのに、いざ、マットの上に立つと全く緊張しなかった。気持ちが良すぎて『もう一回、オリンピックに出たい』と思ったくらいです(笑)」

 この大会で、フェアリージャパンは団体7位に入賞し、続く2016年リオデジャネイロオリンピックでも団体で8位に入賞。2大会連続でオリンピックに出場した畠山さんは大会終了後、競技生活にピリオドを打つ。

「競技によっては40代、50代まで活躍する選手もいますが、新体操選手の競技人生は本当に短い。その分、日本代表での7年間はものすごく濃い日々でした。新体操だけしかやってこなかったので、私は同年代の方と比べると、世間知らずですが、得がたい経験をさせていただいた。新体操人生が今の私を支える自信にもなっています」

畠山さんが解説する「新体操 5つの手具」の面白さ

 新体操は全部で5種目。すべて手具を使って行う。各種目と手具について畠山さんに解説してもらった。

<クラブ>

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「唯一、2つ道具を使うのがクラブ。投げたときに2つのバトンを同時に目で追わなければいけないので扱いはとても難しい。そして、硬いので体にぶつかると痛い(笑)。スピード感あふれる演技が魅力の一つです」

<ボール>

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「体の上で転がしながら演技をするシーンが多いボール。ミスをすると転がっていってしまうので、ミスを怖がり力が発揮できなくなる場合が多い。柔軟性を生かしたしなやかな演技が魅力です」

<リボン>

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「新体操で最も代表的な種目といえばリボン。リボンの長さは6メートルあるので、体に巻き付いたり、結ばれたり、形が不安定になったりと難しく、実は苦手にする選手も多い。でも、リボンの形が決まると本当に美しく最も華やかな種目です」

<ロープ>

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「ロープは、持ち方や投げ方のテクニックや、空中に舞うロープをどれだけしなやかに動かせるかを競う種目です。身近な運動に置き換えると縄跳び。ジャンプの回数が多く、時には二重飛びをすることもあり、持久力を要する、とてもハードな種目です」

<フープ>

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「フープはくぐったり、体の上を転がしたり、投げたりと、ダイナミックな演技が魅力。大きな手具なので、体が大きな選手の方が扱いやすい傾向があります。私の一番好きな種目でした」

競技を支えたスポーツくじに今、想う感謝

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 新体操の競技力向上には、施設の充実も大いに影響する、と畠山さん。技を磨き上げるためには、新体操に適した屋内施設が欠かせないという。

「新体操の種目は、リボンやフープなどの手具を使い、高く投げることもあります。練習する場所はそれらを投げても、どこかに引っかかったり当たったりしないだけの高い天井が必要です。また、団体種目では、すべての選手の動きが揃う美しさも採点の対象です。全面鏡の体育館であれば、フォームや同時性も確認しながらトレーニングが進められるので、パフォーマンスの質を高めることにもつながります」

 スポーツくじ(toto・BIG)の収益は、都道府県や市区町村が所有するスポーツ施設の新体操マットの設置にも役立てられている。その助成実績は平成30年度までに19件、助成金額は7千6百万円に達している。現役時代も「スポーツくじ」や「toto」の存在は知っていたが、引退後、助成金の幅広い活用方法を知り、あらためて感謝している、と話す。

「今、2020年東京大会に話題が集まっていますが、オリンピック・パラリンピックはその先も続きます。今、トップで活躍する選手だけでなく、やはり次世代に輝く選手たちの育成はとても重要。日々、成長する若い選手たちが、伸び伸びとプレーできる環境づくりやサポートに使われている助成金があることは、スポーツに関わる一人として、とてもうれしく思います」

 フェアリージャパンは、すでに2020年東京オリンピック出場を決めている。畠山さんが今の代表チームに期待することとは?

「採点競技はオリンピックの前の成績も影響してきます。常に上位にいれば、強豪国という目でみられ、優位になる。そして世界新体操選手権で、3大会連続で団体種目別のメダルを獲得している日本は、今、とても良い流れにあると感じています。2020年東京オリンピックでもメダルへの期待が高まると思いますが、私個人としては、選手たちには、ただマットの上でベストを尽くしてほしい。そして、たくさんの観客の前で、キラキラと輝く姿を見せてほしいですね」

 今後はメディアや体操教室を通して新体操の普及に努めることも、自身のミッションの一つ、と話す。

「新体操の魅力は『すごい』『頑張った』という感動だけではありません。選手たちは演技に乗せて、いろいろなストーリーを表現しています。そして、演技が始まると、会場中が選手の感情に染まっていく。例えば、悲しさや苦しさが伝わる演技に涙が流れそうになったり、テンポの良い音楽で会場が一体となって盛り上がったり……。ルールは知らなくてもいい。まずは、芝居を観る感覚で楽しんでほしい。1回見てもらえたら、きっと好きになってもらえると思います」

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畠山 愛理はたけやま あいり

1994年8月16日、東京都生まれ。6歳から新体操を始め、2009年12月、15歳でフェアリージャパンのオーディションに合格、新体操日本ナショナル選抜団体チームに入る。2012年ロンドンオリンピックに団体で初出場し、7位入賞。2015年の世界新体操選手権では団体種目別リボンで日本にとって40年ぶりのメダル獲得に貢献する。翌2016年リオデジャネイロオリンピックにも団体で出場し、8位入賞。大会終了後、現役を引退する。現在は新体操の指導、講演のほか、テレビの情報番組に出演するなど、タレント、リポーター、モデルとして幅広く活躍。

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本記事を読んで、スポーツくじ(toto・BIG)の収益が、日本のスポーツに役立てられていることを理解できましたか?

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