インタビュー

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オリンピックに繋がる大会に おりひめジャパンが目指す世界選手権とその先

東京オリンピックに向けた強化策、強豪デンマークからキルケリー監督を招へい

 11月30日から12月15日まで熊本で開催される「2019女子ハンドボール世界選手権大会」。今回で24回目を迎える2年に一度の世界一決定戦には、前回優勝国フランスに加え、世界各地での予選を勝ち抜いた合計24チームが参戦する。開催国として出場する日本が目指すのは「メダル獲得」。過去最高成績が7位、さらに最近4大会では決勝トーナメント1回戦進出が最高であることを考えると、3位以内のメダル獲得は高い目標に思えるかもしれない。だが今、チーム内に溢れるのはメダル獲得への自信だ。

 アジアでは韓国に次ぐ強さを誇る日本だが、世界が相手となると苦戦を強いられてきた。そこで、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることが決まると、日本ハンドボール協会は段階的な強化計画を立て、まずは有望選手を海外リーグに派遣して「個」の力を強化。そして、「チーム」としての強化を図るため、強豪デンマークで代表コーチを務めたウルリック・キルケリー氏を2016年に監督として招へいし、「おりひめジャパン」の愛称を持つ代表チームに、勝利の遺伝子を注入することにした。

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 キルケリー監督がもたらした最大の変化は、チーム内のポジティブな雰囲気作りだった。アンダー世代から日本代表でプレーする石立(いしたて)真悠子選手(三重バイオレットアイリス)にとってキルケリー監督は3人目の代表監督。その指導方法は「ヨーロッパの文化や考え方が大きく影響している」と言う。

「日本の指導者は反省点に注目する。選手も、負けると試合の中で良くなかったことに目を向けがちなんですが、今の監督はいいところにすごく目を向けてくれて、ポジティブな部分を探してフィードバックしてくれます。おかげで、選手もポジティブにストレスなく試合と向き合えるようになったと思います」

 妹・果帆選手と共に代表入りを目指す角南(すなみ)唯選手(北國銀行)は「最初は褒められることに戸惑いもあったんですけど、結構うれしいです」と笑顔。ハンガリーでのプレー経験を持つ田邉夕貴選手(北國銀行)は「すごくポジティブに考えられる。ただその分、自分たちも代表の自覚を強く持ってやらないといけないという気持ちはありますね」と、責任感の喚起にも繋がっていると話した。

手応えと課題が見えた今夏のヨーロッパ遠征、「速攻を日本の武器にしたい」

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 言葉の壁があるからこそ、あえて密なコミュニケーションをとった。長い合宿や遠征の時は監督と個人面談の時間が設けられ、そこで選手は自分の意見を伝えることができる。キャプテンとしてチームを率いる原希美選手(三重バイオレットアイリス)は「監督の考えが選手に伝わりやすいですし、選手の意見も監督に伝わりやすいです」と大歓迎。監督が目指す「速攻を日本の武器にしたい」というチーム作りも浸透してきている。

 その成果の兆しが現れたのは、今年7月25日から8月27日に行われたヨーロッパ遠征だった。ハンドボールが盛んなデンマークとハンガリーで「世界選手権に向けた準備段階として、多くの試合をこなしてきた」(石立選手)。その中で感じたのが「試合の中で、自分たちのやりたいことをできる時間帯がすごく増えた。目指す方向性や、やっていることは間違っていない」という手応え。同時に「その手応えを結果に結びつけられなかった。世界選手権までにどういう形で勝ちきる力をつけていくか」という課題も生まれた。9月19日から10月1日に行われたノルウェー遠征で、選手は個々で感じた課題に取り組むと同時に、キルケリー監督が目指す速攻を武器とするチームへの総仕上げを行った。

「走る」「跳ぶ」「投げる」の3要素が求められるハンドボールは、「球技」と「格闘技」が融合したスポーツと呼ばれるほど激しいボディコンタクトが多い。コート上に立つのはゴールキーパーを含む7選手で、1試合は前後半それぞれ30分間プレー。膝から上の部位でボールに触れることができるが、足でボールに触れると反則となる。オフェンスでは、3秒以内にドリブルやパスなどの動きをする必要があり、ボールを持った状態では3歩まで歩くことができる。ディフェンスでは、相手の正面で身体をぶつけたり、手で腰や手を抑え込んで、自由を奪うことは許されるが、相手を突き飛ばしたり抱え込んだりするとファウルとなる。

 ボディコンタクトが許されるからこそ、体格差が大きく物を言う。おりひめジャパンは世界で最も小柄なチームの一つ。体格で勝る海外選手は「容赦なく当たってきますね」と、石立選手は笑う。

「アフリカや南アメリカのチームはパワーで真っ向勝負してくるし、デンマークやノルウェーなどヨーロッパ勢も体格を生かしたプレーをしてきます」

 少しでも体格差を埋めるべく、世界選手権に向けてフィジカルの強化にも余念はない。ウエイトトレーニングに加え、食事にも気を遣う毎日。3度の食事以外にも「補食でおにぎりを食べたり、プロテインを飲んだり。タンパク質の量を増やして、筋量と体重アップに努めています」と原選手は明かす。

選手は誰もが怪我を経験、それでもプレーし続けるハンドボールの魅力

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 ボディコンタクトが多いため、体に生傷は絶えない。角南選手はこれまで膝前十字靱帯を2度断裂し、石立選手は背骨の骨折を経験。軟骨の移植手術をしたことのある田邉選手は「みんな一度は大きな怪我をしていると思いますよ」と事もなげに笑ってみせる。なぜ、怪我を乗り越えプレーし続けるのか。それはハンドボールに魅せられているからだ。

「ハンドボールはサッカーと似ているって言われるんですけど、サッカー以上に攻守の切り替えが早くて、点数もたくさん入る。走って跳んで投げて、いろんな要素が含まれているのが魅力だと思います」(田邉選手)

「個人のプレーの質やレベルももちろん大事なんですけど、7人で協力すると、一つのチームとしてまとまり、7人のパワーが8人分にも10人分にもなる。そういうところがすごく好きですね。個人でディフェンスを抜いてシュートを決めるより、チームのコンビネーションが上手くいって点を取れたり、組織的なディフェンスで一つのゴールを守ったり。全員でうれしさや喜びを共有できるところを、私は魅力に感じています」(石立選手)

 選手たちが愛してやまないハンドボールだが、「日本ではまだまだマイナーなスポーツ」(角南選手)なのが現状だ。石立選手と田邉選手はハンガリー、角南選手はデンマークでのプレー経験を持つが、ヨーロッパではハンドボールは人気スポーツの一つに数えられる。日本では飲食店で野球やサッカーのテレビ中継が流れるように、ヨーロッパでは街角のバーでハンドボールの中継がテレビに映し出されるという。日本でもハンドボールの知名度や人気を高めるために、世界選手権、そして来年に迫った東京オリンピックは大きなチャンスとなる。

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 今回の世界選手権の開催や選手の発掘・育成等には、スポーツくじ(toto・BIG)の収益による助成金が役立てられている。角南選手は「今、自分たちが恵まれた環境の中でハンドボールができているのは当たり前ではなくて、支えて下さっている方がたくさんいるからだと、改めて感じています」と感謝。主将の原選手は「皆さんに感動してもらえるプレーをできる自信はあります。世界選手権が開催される熊本には2016年の地震で被災された方もたくさんいらっしゃると思うので、私たちの戦う姿を見て元気になってもらえれば」と、コートの上から感謝の気持ちを還元することを誓った。

 開催まで1年を切った東京オリンピックに、おりひめジャパンは1976年のモントリオール大会以来44年ぶりに出場することが決まっている。「4年に一度だけど、一生に一度の大きな大会。夢の舞台でもありますが、今は開催が迫っているので目標になっています」と田邉選手。原選手は「小学校の頃からの目標。開催国としてのプレッシャーもありますが、世界選手権で結果を残して皆さんに注目してもらい、オリンピックではたくさんの方に観に来てもらいたいと思います」と、今回の世界選手権でのパフォーマンスを、その先の未来へ繋ぐ決意を語った。

 コート上で7人の選手が華麗に、そして優雅に舞い、天の川に橋を架けるように世界に繋がる大きな橋を架けたい、という想いが込められた「おりひめジャパン」。世界選手権、オリンピックという大舞台を通じ、ハンドボールの魅力を広めていく。

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石立 真悠子いしたて まゆこ

1987年1月18日、福井県生まれ。ポジションはCB(センター)。中学時代にハンドボールを始めると、すぐに頭角を現し、2001年の第10回JOCジュニアオリンピックカップで優秀選手に選ばれた。高校は石川県の小松市立高等学校に進学し、在学中の2004年にはU-20日本代表に“飛び級”で選出された。卒業後は筑波大学に進み、全日本学生ハンドボール選手権大会の優勝に貢献。同大会では3連覇と同時に3年連続で優秀選手に選ばれた。2009年に日本ハンドボールリーグのオムロンに加入。同年12月に日本代表として第19回世界選手権に出場すると、2015年まで4大会連続で出場。2014年にはハンガリー1部のフェヘールヴァールKCに移籍し、3シーズン戦った。2017年に帰国後は福井県体育協会、オムロンなどを経て、今季から三重バイオレットアイリスに移籍した。

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原 希美はら のぞみ

1991年3月9日、宮崎県生まれ。ポジションはLB(左45)。学童期よりハンドボールを始め、県内の強豪・宮崎学園高等学校1年生だった2006年にはU-16世代の日本代表に選ばれた。同3年生の2008年にはU-18日本代表として第2回女子ユース世界選手権大会に出場。日本体育大学へ進学後はU-20日本代表として第17回女子ジュニア世界選手権に出場したほか、関東学生ハンドボールリーグで数々のタイトルを受賞した。2013年に日本ハンドボールリーグの三重バイオレットアイリスに加入し、2013-14年シーズンには最優秀新人賞を獲得。2016-17年シーズンから主将を任されると同時に、日本代表でも2016年6月から主将を務める。

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田邉 夕貴たなべ ゆき

1989年8月25日、京都府生まれ。ポジションはLW(左サイド)。小学生の頃はクラシックバレエを習うが、ハンドボールに転向。洛北高等学校から大阪体育大学に進学すると、2009年に第14回ヒロシマ国際ハンドボール大会で日本代表に初選出され、同年の世界選手権にも出場した。大学卒業後は、2012年に日本ハンドボールリーグの北國銀行に加入。2012-13年シーズンに最優秀新人賞を受賞した。2014年にハンガリー1部のフェヘールヴァールKCに移籍し、2シーズンをプレー。2016年に北國銀行に復帰した。

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角南 唯すなみ ゆい

1991年6月7日、岡山県生まれ。ポジションはRB(右45)。双子の妹・涼もハンドボール選手で、実妹の果帆は「おりひめジャパン」のメンバーというハンドボール一家で育つ。大阪・四天王寺高等学校から大阪体育大学に進学。在学中に中心選手として活躍すると、2014年に日本ハンドボールリーグの北國銀行に加入。同年の第17回アジア競技大会で日本代表に選出される。日本ハンドボールリーグではベストセブン賞や最高殊勲選手賞を獲得。2018年から強豪国デンマークのニュークビン・ファルスターに移籍。海外で修行し、今季から北國銀行に復帰した。

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