インタビュー
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“生涯スポーツ”水泳の魅力を再認識 貴重な経験を社会の未来へ還元
競泳 北島康介氏
「スポーツから学ぶ、成長のヒント」GROWING byスポーツくじ。今回は、2004年アテネオリンピックと2008年北京オリンピックの100メートル、200メートル平泳ぎで金メダルを獲得し、日本人初2種目2連覇を達成した元競泳選手の北島康介氏が登場する。オリンピックで4大会連続入賞をするなど常にトップを走り続けてきた北島氏は引退後、指導者ではなく事業・運営の立場から競技の普及に努めている。後編では、引退後に改めて気付いた水泳の魅力や自身の経験を基に考える親と子どもの距離感、今後のビジョンに迫る。
(前編はこちら)必死の努力を重ねながらも忘れなかった原点「やっぱり好きで始めた」
現役を離れて改めて気付いた水泳の魅力とは…
――2016年に現役を引退されてからの北島康介さんは株式会社IMPRINT(インプリント)の代表取締役社長兼CEO、東京都水泳協会会長、競泳プロチーム「Tokyo Frog Kings」GMなど様々な肩書きを持っています。指導者の立場ではなく、事業や運営などで水泳の普及、発展に尽力されています。
「僕はやっぱり1年390日くらいの感覚で水泳のことばかり考えている平井(伯昌)コーチを直に見てきましたから、あそこまで選手にコミットできないと思って指導者には向いてないと感じたんです。現役時代、僕の周りでは医師、トレーナーさん、理学療法士さんなどいろんな方が支えてくれて、北島康介という人間を強くしてくれました。そういった人たちのスポーツ界における地位向上やコミュニティを広げていくための活動も継続的にやっています。例えば、この人に相談してみたいってアスリートが複数、選択肢を持つことができて、支えてもらっている人との輪が広がっていけば、競技力としても引き上がっていくと思うんです」
――北島さんが大会委員長を務める東京都水泳協会主催の「KOSUKE KITAJIMA CUP」は2015年からスタートし、今年1月ではや9回目を迎えました。小学生からトップスイマーまで参加する、育成や普及を目的とした大会でもあります。
「元々、東京都選手権という大会を僕がコーディネートして今のような形になりました。ジュニアからトップ選手まで一緒に一つの大会に出る競技って、水泳くらいじゃないですかね。僕も小さい頃、会場で林享さん、三浦広司さんといった日本のトップスイマーを間近に感じ取れたことは嬉しかったし、励みにもなりました。そういう場をこれからも大切にしていくつもりです」
――現役を離れてみて、水泳の魅力に改めて気付かされたところは何かあるのでしょうか?
「魅力としては生涯スポーツであること。幼児からご高齢の方々までやっているって、それこそなかなかないんじゃないですか。マスターズの大会でもご高齢の方が水から上がってくると笑顔で喜んでいたり、今日はダメだったなって悔しがっていたり、そういうことを改めて見る機会がありました。水泳をやっているみなさんを僕は応援したいし、自分の経験を還元していきたいし、ずっと水泳を好きでいられるようなフィールドを作っていくことに、自分の立場から協力できればいいなって思っています」
北島さんが認める「きちんと努力できる子が成長できる」
――北島さんはオリジナルプログラムを作成して大人から子どもまで対象にしたスイミングスクールも運営されています。北島さんみたいになりたいと思う子どもたち、そうなってほしいと願う保護者の方もいらっしゃると思うのですが、何かアドバイスがあるとすれば。
「どうですかね。きちんと努力をできる子が成長できるというのは、それはもう間違いないです。僕も高校生でシドニーオリンピックに出て、そこから世界一になるための努力は死ぬほどきつかったけど、自分の水泳人生の中ではすごく有意義な時間ではありましたから。あとこれは自分の経験上からなんですけど、スポーツにおいては親が子どもにこうなるべきみたいにあんまり押しつけないほうがいいかなとは思いますね」
――経験上と言いますと?
「両親がすごく教育熱心で、何個も学習塾に通わされたので僕にはその反発がありました。水泳で頑張って大学に行くから、全国1位になったら塾を全部辞めさせてほしいとお願いして、本当にそうしてくれました。自分が水泳で強くなっていくと、それはそれで親も口出しをしてくるので言い合いになったり、試合に来ないでくれって言ったりしたこともありますよ。でも、結局は自分が決めたことを容認してくれて、コーチや自分の周りに“お願いします”と委ねてくれました。水泳から、プールから逃げられないような状況を僕は自分で作ったわけですけど、尊重し、応援してくれた両親には感謝しかないです」
――自分で決断していくから覚悟が決まるところがあるのかもしれません。
「もちろん、どれが正しいってことはないと思います。ただ期待しすぎない、背負わせすぎないというのはやっぱり大事かな、と」
発起人として活動する「TOKYO UNITE」の意義
――北島さんの活動は水泳に関するものだけにとどまりません。昨年7月には東京都に拠点を置くスポーツチーム・団体が競技の枠を取っ払って、共同で情報発信やマーケティング、社会貢献、そしてグッズ販売などを展開するためのプロジェクト「TOKYO UNITE」が立ち上がり、発起人の一人となりました。
「Tokyo Frog Kingsを立ち上げる際にプロのチーム、団体から組織運営などいろんなことを学びたいと思い、現在のTOKYO UNITEの事務局の方に相談をしていました。その後、東京を代表するスポーツチームが一丸となって、社会貢献をしていくようなプロジェクトを始めても面白いのでは、という話になりました。知名度のあるひとつのチームが社会貢献活動をやっていても、そこまで知られていないという現実があります。そういった意義深い活動を、一つになって東京から世界にも発信していくことでロールモデルを作っていければいいんじゃないかなと思っています」
――参加するのは、野球から東京ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツ、サッカーからFC東京、FC町田ゼルビア、東京ヴェルディ、女子サッカーから日テレ・東京ヴェルディベレーザ、バスケットボールからアルバルク東京、サンロッカーズ渋谷、ラグビーから東京サントリーサンゴリアス、東芝ブレイブルーパス東京、リコーブラックラムズ東京、卓球から木下マイスター東京、そして日本相撲協会、Tokyo Frog Kingsと14のスポーツチーム、団体です。
「すごいチーム、団体が揃っていますよね。我がTokyo Frog Kingsもその一員になれたことはとても光栄でした。影響力のあるチームや団体が集合体になったら、どんなことが生まれてくるんだろうって僕自身、楽しみにしていますし、期待しています。でかいことをいきなりドーンとやるのではなく、いろんな意見をまとめながら一つひとつ積み上げていけたらな、という想いです」
――昨年12月には両国国技館でTOKYO UNITEによる小学生向けのマルチスポーツ体験イベントが開催され、元横綱の鶴竜親方やラグビー元日本代表の大野均さん、読売ジャイアンツの秋広優人選手らも参加しています。
「子どもたちが一度にいろんな競技に触れる機会って、実はなかなかありません。体験することで好きになるスポーツや自分に合ったスポーツを見つけられることもできますから、こういう機会をもっと増やしていければいいですよね」
――では最後に。北島さんが今後やっていきたいこと、またこれからの水泳界をどのように盛り上げていきたいと考えていらっしゃいますか?
「現役の時に自分がプロになれたということもあって運良く起業できて、スポーツマネジメントの切り口で自分自身を、なおかつ他のアスリートをマネジメントする機会を得ることもできました。アマチュアスポーツの世界で選手たちをどう引き立てていくかというのは、まだまだこれから学ばなければなりません。事業のことで言えばコロナ禍の影響もありましたし、そういう中でスポーツと社会の関わり方を見直していくいい機会にもなりました。まずは今までやってきていることを、しっかりと整理しながら前に進めていきたいと思っています。
水泳界に関しては、いろいろと今風にしたらいいっていう側面はもちろん分かります。だけど、古橋廣之進さんの時代から継承されている魂は僕にも引き継がれているので、古き良きものもやっぱり大切にしたいし、してもらいたい。現在は東京都水泳協会の会長を務めさせていただいているので、普及活動を含めて水泳界がもっと良くなっていくための施策を考えながら、行動に移していきたいと考えています」
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(前編はこちら)必死の努力を重ねながらも忘れなかった原点「やっぱり好きで始めた」
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北島 康介きたじま こうすけ
1982年9月22日、東京都出身。5歳から水泳を始め、中学2年生から平井伯昌コーチに師事。中学3年生の時に全国中学校水泳競技大会で優勝を飾る。高校3年生だった2000年、シドニーオリンピックに出場して100メートル平泳ぎで4位に入賞すると、2004年アテネオリンピックと2008年北京オリンピックでは100メートル、200メートル平泳ぎで日本人初の2種目2連覇を達成。2012年ロンドンオリンピックでは100メートル平泳ぎで5位となるも、2016年オリンピック5大会連続出場を逃した後に引退。現在は株式会社IMPRINT代表取締役社長兼CEO、東京都水泳協会会長として活動する他、東京をホームタウンとする14のスポーツチーム・団体の連携プロジェクト「TOKYO UNITE」の発起人としてスポーツの普及に力を注ぐ。
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