インタビュー

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先輩から学んだ代表主将の姿 導き出した“私らしい”キャプテンシー

女子サッカー 熊谷紗希選手

「スポーツから学ぶ、成長のヒント」GROWING byスポーツくじ。今回は、主将としてサッカー日本女子代表・なでしこジャパンを率いる熊谷紗希選手が登場する。高校2年生で日本代表に初選出されて以来、FIFA女子ワールドカップには3大会、オリンピックには2大会出場するなど日本代表チームには欠かせない存在だ。2017年に主将に任命されてから今年で7年目。これまで澤穂希さん、宮間あやさんといった主将の下でプレーしてきた熊谷選手は、どのような想いを持ってチームを率いているのか。前編では、熊谷選手のキャプテンシーに迫る。

ドイツ、フランス、イタリアなど海外を主戦場に活躍

――先日、来季からイタリア・セリエAのアソチアツィオーネ・スポルティーヴァ・ローマ(ASローマ)へ移籍することが発表されました。率直に現在のお気持ちをお聞かせください。

「海外なので当然、日本人は外国人として扱われます。限られた外国人枠の中でプレーするわけですし、そのためには自分の力で居場所を掴まなければならない。最初は絶対にストレスを感じることもあると思いますし、起きることがすべて『NEW』なので先が読めない。その中でも自分に求められていることは明確に伝えられていますし、何よりも自分を必要としてくれたクラブのために全力で頑張りたいです」

――熊谷選手は2011年から海外クラブでプレーし続け、ASローマで4クラブ目になります。過去には試練や困難など難しい経験もありましたか?

「ドイツからフランスへ移った時は大変でした。隣の国なのに人も文化も雰囲気も、こんなにも違うのかと驚きました。自分がレベルアップするためにオリンピック・リヨンへの移籍を決断して、そこに間違いはありませんでした。でも、自分はフランクフルトでの生活が本当に楽しくて大好きだったので、どちらかというと移籍前のクラブや環境が恋しくなってしまったんです」

――言語に慣れる過程も大きなストレスになると思います。

「フランス語に馴染むまでは、少し苦労しました。ただ振り返ってみると、そのフランスに8年もいて、またドイツに戻ったのが2年前のこと。長くいた環境から動くというのはエネルギーが必要ですし、この時は多少ドイツ語を話せる部分もあったので、逆にあまり外国人扱いされないという場面もありました(苦笑)」

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――イタリアは熊谷選手にとって未踏の地となります。現在の心境は?

「楽しみですね。最初にやってくるストレスは必ず通らないといけない道ですし、それが過ぎればサッカーに集中できる時間がやってきます。だから、楽しみな気持ちしかないです」

――新しい環境で自分の居場所を作るために意識していることがあれば教えてください。

「その環境で自分が生き抜く術をいち早く見つけることだと思います。この年齢になると、自分に何ができて、何ができないかは分かっています。例えば、今から100メートルを走って10秒を切るのは絶対に無理ですし、それは私の仕事ではない。ただ、サッカーは個人競技ではなくて仲間や味方がいます。チームメートの特徴を早く覚えて、自分が求められていることをどれだけできるか。それが環境に適合する一番の近道です」

日本代表主将の大役、就任当初から意識することとは

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――日本代表では2017年から主将の重役を担っています。責任ある立場を務めることで、心境や立ち居振る舞いなどに変化はありましたか?

「当たり前のことですが、今まで以上にチームのことを考えるようになりました。主将にもいろいろな形があって、私自身は澤穂希さんや宮間あやさんといった偉大な先輩方の主将像を身近で見させていただきました。重要なのは、勝つためのチームを作っていくという作業で、そのために自分が先頭に立つ必要が出てくる場面もあります。何かを大きく変えるとか特別なことをするとかいうよりも、チーム状況に合わせて柔軟に動こうというマインドです」

――澤さんはどのようなタイプの主将だったのでしょうか?

「澤さんは言葉も掛けてくれていましたけど、そもそも口数の多い方ではない。澤さんが実際におっしゃっていたのは『自分のプレーや経験をピッチで見せるしかない』という言葉。ピッチに立ってプレーで示して、その中で私についてこいという選手でした。プレーは、本当に説得力しかなかったので、周りの選手は自然と惹きつけられました」

――では、宮間さんはどのような主将でしたか?

「あやさんは、もちろんプレーも頼りになる方でしたけど、オフ・ザ・ピッチでもチームが上手く回るように動く主将でした。必要であれば対話することも大切にしていましたし、周りを見て気を遣ってくれる主将でした。人よりも気付けてしまう範囲が多い人だったので、大変だったと思います」

――それぞれの色があったわけですね。

「共通しているのは、自分にとっては澤さんもあやさんも『ついていきたい』と感じる主将だったこと。ついていけば間違いないな、という主将でした。形はどうであれ、私も周りの選手に『ついていきたい』と思ってもらえる主将でありたいです」

――偉大な先輩と比較される難しさもあると思います。

「正直、比較されたところで敵わないので、いい意味でまったく気にしていません(笑)。もちろん結果を求められる世界でそれがすべてという側面もありますけど、まったく違うキャリアで、個性で、選手ですから。自分は自分のペースでやっていけばいいのかなと」

――就任当初から変わらず意識していることはありますか?

「主将になった当初、いろいろな方から『熊谷選手はどんな主将を目指しますか?』と質問されました。その時から自分がずっと言っているのは『澤主将でもなく、宮間主将でもなく、熊谷紗希でやっていきたい』と。先輩方をリスペクトしていて学ぶこともたくさんありましたけど、熊谷は熊谷でいきます。それは就任当初からずっと言ってきて、心掛けていることです」

世代間の違いを恐れず、ぶつかり合いで磨くチーム力

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――普段のクラブチームと違って活動時間が限られる日本代表チームです。主将を務める難しさ、あるいはやり甲斐はありますか?

「ふるいにかけられる、という表現が正しいのか分かりませんが、日本代表選手はずっと競争の中に身を置いているのも事実。遠征や大会のたびにメンバーが入れ替わりますし、クラブチームのように同じメンバーで長い時間を過ごせるわけでもありません。でも、心掛けなければいけないのは、日本代表は勝たなければいけないチームだということ。そのベクトルだけは絶対に変えてはいけない。内容を追い求めるのも大切ですが、それはあくまでも結果を出すための方法論に過ぎません」

――若い選手や経験の浅い選手は日の丸を背負ったことに満足してしまうかもしれません。

「最初はみんなそういった立場からスタートしますが、嬉しい気持ちや喜びという感情だけでは日本代表選手として足りないですし、世界と戦って勝てない。そこは言葉にして伝えています。みんな絶対に分かっていることなんだけど、それをあえて言葉にしなければいけない場面がある。たまには厳しいことも言います(笑)」

――今、20歳前後の選手は2011年のFIFA女子ワールドカップ優勝を見て、サッカーを始めた選手、のめり込んだ選手かもしれません。時代や世代も違う彼女たちを引っ張っていく難しさは?

「こんな言い方をすると自分の年齢を感じてしまいますが、時代は変わっています。自分が指導者や先輩方に教わってきた形と今はまったく違うと思います。良し悪しではなく、違う、ということです。同じ指導や考え方では20歳前後の選手に伝わらないですし、だからこそぶつかり合うことが大切。絶対に熱いモノを持っているはずなので、それを引き出せるまでぶつかり合わないといけない。言葉もプレーもぶつけ合って、本音や本気を引き出したい」

――後輩からのリスペクトを感じる瞬間もありますか?

「慕ってもらえているのかな、くらいです(笑)。『ついていきます』と言ってくれる後輩もいますし、そういう場面では『ついてこい』と言います。怖さはないでしょうね。足りな過ぎるかも(苦笑)。年齢が上だからといって年下の選手と対等に話せないのは嫌ですし、そこは重要だと思っていません。ピッチに立ったら全員が1人の選手として責任を持ってプレーしなければいけない。それはピッチ外でも似ている部分があると思っていて、どの選手ともコミュニケーションを取れる環境作りは大切にしてきたつもりです」

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――FIFA女子ワールドカップ2023開幕が目前に迫っています。短期間で結果を求められる本番では、どのようなキャプテンシーが求められていると考えますか?

「ワールドカップ優勝を経験したことのある立場から言うと、実力はもちろん大事です。でも、それだけでは勝ち続けられない。時には運も必要ですし、それから勢いがものすごく重要になります。これまで以上に結果を求められる大会なのは間違いないですし、日本の女子サッカーの未来を左右するかもしれないという責任を背負っています。そのために、まずはグループリーグを突破して、トーナメントを1つずつ上がっていく。心身ともにいい準備をしながら、チームが勢いづくような働きかけをするのが主将の仕事、役割だと思っています」

 後編では、男子や大人の女性たちと一緒にボールを蹴った日々や、日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)でプレーしながら大学に通い文武両道を貫いた背景にあった母との約束などに迫ります。

(後編はこちら)文武両道を後押しした母との約束 男子とともに築いたサッカーの基礎

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熊谷 紗希くまがい さき

1990年10月17日、北海道出身。アソチアツィオーネ・スポルティーヴァ・ローマ(ASローマ)所属。2009年に常盤木学園高等学校から浦和レッドダイヤモンズレディースに入団し、日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)に初出場。同年に筑波大学へ進むと、2011年に女子ブンデスリーガの1.FFCフランクフルト(現・アイントラハト・フランクフルト)へ移籍。2013年にはフランス女子1部のオリンピック・リヨンへ移籍し、2021年にFCバイエルン・ミュンヘンと契約してブンデスリーガ復帰。2023年6月にイタリア・セリエAのASローマと新たに契約を結んだ。2008年に高校2年生で日本代表初選出。2011年FIFA女子ワールドカップでは20歳で優勝を経験し、2017年から日本代表主将を務める。FIFA女子ワールドカップは2011年、2015年、2019年大会、オリンピックは2012年ロンドン大会、2021年東京大会に出場。

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