インタビュー
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「次のパラリンピックでできれば最高」 メダル獲得で果たしたい恩返し
パラアルペンスキー 本堂杏実選手
「スポーツから学ぶ、成長のヒント」GROWING byスポーツくじ。今回は、パラアルペンスキーでパラリンピックに2大会連続出場中の本堂杏実選手が登場する。5歳から始めたラグビーでは18歳以下の日本選抜となる活躍を見せたが、ラグビーで培った“何事にもトライ”の精神で、大学2年生の時にパラアルペンスキーに転向。パラリンピックでは2大会連続で入賞を果たしている。後編では、本堂選手に2度のパラリンピック出場で感じたことや、独自の目標設定方法などを聞きながら、アスリートとして成長していく姿に迫った。
(前編はこちら)ラグビー日本選抜からパラスキーへ 転向を後押ししたトライの精神
同い年で金メダリストの村岡選手「刺激になる人だし、親友です」
――2016年にラグビーからパラアルペンスキーに転向し、2017年3月にはジャパンパラアルペンスキー競技大会の大回転(立位)で優勝を果たしました。大会に参加するようになって約半年。どのような努力があったのでしょうか。
「運動神経はいい方なので、色々な競技をやってきた中で『この動きをやってみて』と言われたら、パッとできてしまう。それはパラアルペンスキーでも同じでした。でも、最初はガッと伸びるのですが、その後の成長曲線が緩やかになってしまう。今がまさにそうなんですが……。ただ、競技を始めた頃の話に戻すと、まず『楽しい』というのがありました。時速100キロ以上のスピードに対して最初から恐怖心はなく、最高に楽しかったです。むしろ人と人がぶつかり合う競技であるラグビーをよくやっていたな、と感じるようにもなりました。当時は『自分の前に来た人をタックルで倒すだけ』くらいに思っていたのですが、スキーは人とぶつかることもありません。ラグビーを離れてこんな感覚になったのは自分でも意外でした」
――そして2018年の平昌パラリンピック出場を勝ち取って回転(立位)で8位入賞。同じ年の村岡桃佳選手が大回転(座位)で金メダルを獲得するなど5個のメダルを手にしたことに大きな刺激を受けたそうですね。
「会場で応援していた彼女が金メダルを獲った時に、表彰式で君が代が流れたんです。自分のことのようにめちゃくちゃ嬉しかった。と同時に、私も表彰台に立ちたいという想いがどんどん膨らんできたんです」
――村岡選手とは大の親友でもあります。
「最初に日本代表合宿で出会った時は、彼女に怪訝な顔をされたことを今も鮮明に覚えています。本人には『そんなことない』って言われるのですが、『日本代表チームにヤバいヤツが来た』って思ったんじゃないですかね(笑)。私はスポーツしかしてこなかったタイプ。生きてきた道が違っていて、『でこぼこコンビ』って周りが言うのも何だか分かります。たまたまサンリオ好きという共通項があって、そこから距離が縮まって仲良くなりました。刺激をもらえる人だし、親友です」
美談にしたくなかった北京パラリンピック前の大怪我
――2022年の北京パラリンピックでは立位の回転、スーパー複合、滑降で6位となるなど5種目で入賞。前回よりも好成績を収めました。
「でも、先ほど言ったように、私は最初にガッと伸びてその後の成長が緩やかなタイプ。平昌が終わってから伸び悩んでしまう時期があって、自分としてももどかしさがありました。結局、北京パラリンピックでも表彰台に届きませんでした。ここでも村岡選手たちがメダルを獲得したことは嬉しかったのですが、その時は正直、悔しさも混ざっていましたね。素直に喜んでばかりいられない自分がいました。
もう2年経ちますが、振り返って思うのはやっぱりメダルに届くレベルにはなっていなかったということ。自分に厳しいようですが、(悔しくて)泣く資格もなかったと今では思っています。このままであればメダルなんて無理。じゃあ何をしなければならないかと言ったら、質の高い練習をやり続けるしかない。健常者の選手たちと一緒に練習をして、今は基本的な部分を鍛え上げています」
――ただ、北京パラリンピックの1年前には左膝前十字靭帯断裂で全治7か月という大怪我もありました。
「怪我のことを美談のようにしたくないという想いがありました。パラリンピックに向けた努力は、私だけでなく、みんなしています。怪我をしたのは、あくまで自分の責任。好きでスキーをやっているわけだし、誰かのためではなく、結局は自分のためなので。大会が終わって周りから『怪我もあったし、よくここまで頑張ったよ』と気遣ってもらったのですが、私自身はもっとできると信じていました。
ただこの時の怪我に関して、ポジティブに捉えてはいました。北京まで1年ありましたし、『手術して前より強い靭帯を手に入れて、トレーニングを頑張るぞ』と。でも、あれが大会直前だったら、かなりへこんでいたと思います」
大・中・小と3段階で立てる目標「小さい目標は月単位」
――先ほど表彰台という目標があることを伺いました。目標に向けた本堂選手なりの取り組み方があれば教えてください。
「小さい目標、中くらいの目標、大きな目標と段階立てて取り組んでいます。大きな目標は4年間変わらず、パラリンピックでのメダル獲得です。中くらいの目標はシーズンによって変わってきますし、小さい目標は月単位で変わります。最近で言えば『ワールドカップの出場権を勝ち取るぞ』とか。私は目標を手帳にメモしています。前の月と同じだっていいんです。大会だけのことじゃなくて『有酸素運動を頑張る』みたいなものもあります。手帳を見返した時に、目標が変わってないなとか、頑張るしか言ってないな、みたいな時もありますね。
ただ、誰に見せるわけでもないので、書きたい時に書いているだけなんです。昔、スポーツカウンセラーの方と話をした時に『書かなきゃいけないものと捉われるくらいなら書かない方がいい』と言われて、そうだよなと思いました。逆にそれくらいの気持ちでいたことで、月の小さな目標は自然と習慣になっていきました。今、掲げている大きな目標は言うまでもなく、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォパラリンピックでのメダル獲得です」
――目標に向かう途中、挫折しそうになった経験もあるのでしょうか。
「前シーズンがまさにそうでした。怪我をして、出場できたレースも限られている中、苦手なコースばかり。本当はスキーに向いていないんじゃないかとか、競技を変えた方がいいんじゃないかとも考えたりしました。もちろん、一時の感情ではあるんですが、本当に辛かった。遠征から帰国したらまた怪我をして、なんでこんなに私はツイていないんだろうと。
でも、リハビリして、有酸素運動して、ウエイトトレーニングして、どんどん身体を鍛えていくと気合いが入るんですよね。ラグビーをやっている弟にも『その身体、ヤバッ』と言われると嬉しくなってしまう(笑)。夏場のトレーニングも頑張ってきたし、昨年10月にスキー場に戻ってからは滑りにも安定感が出てきました。コーチにも『軸がしっかりしてきた』と言われました」
「パラリンピックでメダルを獲ることが一番の恩返し」
――苦しい時は一人で向き合い続けていくのか、それとも周りに相談しながら解決していくのか、どちらの傾向にありますか。
「私は色々な人に相談しますね。一番は母ですが、女性のトレーナーさんだったり、(日本体育大学スキー部の)コーチだったり。他にもいっぱいいますよ。アスリート社員として化粧品メーカーのコーセーに所属していますが、会社からもたくさんサポートを受けていますし、本当に色々な人に支えられていて、『私は、恵まれているな』といつも感じています。そのいただいた気持ちを最大限に有効活用させてもらい、パラリンピックでメダルを獲ることが一番の恩返しになると思っています。もう逃げるか、恩返しするか、どっちかしかない(笑)。逃げたいけど、絶対に逃げられない性格なんです。だから、次のパラリンピックで恩返しできれば最高ですね」
――それでは最後に、スポーツくじの収益による助成金がパラスポーツ振興や大会の開催にも役立てられています。パラアルペンスキーに取り組む中で、どんなことを感じていらっしゃいますか。
「特に冬季競技はお金が掛かります。助成金によって幅広くサポートしていただいていることに感謝しかないですし、本当にありがたいです。パラアスリートの立場で言うとすれば、サポートに対して結果で返していきたい。それが恩返しの一つになると思っています。だからこそ、これからも苦しいことはあるかもしれないですが、強い想いを持って頑張っていきたいです」
※スポーツくじの収益は、グラウンドの芝生化をはじめとしたスポーツ施設の整備、地域のスポーツ大会・教室の開催や未来のトップアスリートの発掘・育成など、日本のスポーツ振興のために役立てられています。
(前編はこちら)ラグビー日本選抜からパラスキーへ 転向を後押ししたトライの精神
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本堂 杏実ほんどう あんみ
1997年1月2日、埼玉県出身。株式会社コーセー所属。先天性左手指欠損でありながら、父親の影響で4歳からラグビーを始める。高校では18歳以下の日本選抜に選出。大学ではラグビー部に所属し、2015年にYOKOHAMA TKMピンクリボンカップで優勝するとMVPを受賞。同年の7人制サーキット大会、太陽生命ウイメンズセブンズ2016でもチームを総合優勝に導いた。2016年にパラアルペンスキーへの挑戦を決意し、世界大会に出場し始めるとすぐに頭角を現した。パラリンピックには2018年平昌、2022年北京の2大会に連続出場。北京大会では出場した5種目すべてで入賞を遂げた。
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